● とある堕天使の住み着いた錆びれた教会。 いつだったかアークのリベリスタと堕天使が戦ったその場所。 とある物を取りに、再びその堕天使が舞い降りた。 煌びやかなステンドグラスは割れ、荒れ果てた椅子達。錆びれかかった十字架が彼女を迎える。 返り血で染まった白い翼をその背に、長い金髪を地に着けて着地する。 「け・ん・じゃ・の・い・し!」 賢者の石。 アザーバイドであり、アーティファクトでもある例外中の例外の存在。 それがこの教会の地下にも発生してるとかなんとか。 地下への扉も朽ちてはいるが、誰かが入った痕跡があった。やはり、先客は居るものだ。 階段を降りていけば、見つけたのは顔も知らないフィクサード達。 「ん? なんでこんなとこに女の子?」 「しかも、フライエンジェっすよ」 「ふはっ、役得じゃんか、ついでにこの子もお持ち帰りってか!」 男達の先には、堕天使のお目当ての品。 ――紅く光る、拳二つ分くらいの賢者の石。 堕天使の目に男達は眼中には無い。その石さえ持ち帰れば大義だ。欲しい、欲しい。 靴も履いていない素足で、地下室の奥へと。 剥き出した壁の土塊に、埋もれてはみ出ている賢者の石の下に。 「おい、シカト決め込んでんじゃねぇ」 フィクサードの一人が堕天使の肩を力強く押し、床に転ばせた。下心ありまくり。 「今ここは俺等以外誰もいねぇ。恨むなよククク」 堕天使の上に自らの体重を乗せ、動けなくする。 抱えている人形が邪魔だ、それに男が触れようとした瞬間。 「なぁに、もしかしてアレなのぉ? 遊びたいの?」 少女らしい、高い声。 堕天使が天使の様に微笑んだ瞬間、何重もの魔方陣が展開された。 「なっ……!? まさか、おまえは?!」 「に、逃げろぉおおっ! あいつ、ク、クレイジーマリァァアッ!」 「うわあああああああああ!!」 どこで噂を聞きつけたのか野良のフィクサード。さておき、邪魔者は排除するべし。 「ふふフ、遊ボうとシたのなラ、最後マで遊ンデ逝きなさいよー」 フィクサード達が出口へ向かって走るが、堕天落としの閃光に飲み込まれた。 動けない、逃げれない。身体から嫌な汗がフィクサード達に流れた。恐怖が絶えず襲う。 「ねえ、アルメレミルゥ。あのお兄ちゃん達、マリアと遊びたいみたいなのぉ」 そう言って、ぬいぐるみ型アーティファクト――最悪堕天のテディに自らを捧げた少女。 その瞬間、出現したアルメレミルと呼ばれた人形がフィクサード達を襲った。 ガリッ ボリッ ガリッッ 肉塊から吹き出る血を浴びて、白いワンピースは更に血に染まる。 「あはっ! んぁあっは、っく、アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」 抑えきれないのは、賢者の石を獲得した喜びと、遊んでいる楽しさ。 「あはっ、マリアの勝ーち! 悔しい? あ、しゃべれないかぁー!」 死体を蹴りながら、賢者の石を両手に持ち、顔を桃色に染める。 「これでマリア、誉められる! 早く、もって帰らなきゃ」 そう言いながら、足で死体の頭を踏み潰した。 死してなおも蹂躙されるフィクサード達。それを行うその堕天使。 ――クレイジーマリアの再来。 ● ブリーフィングルームにて。 酷く顔色が悪い『未来日記』牧野 杏里(nBNE000211)が出迎えた。 「皆さん、こんにちは! 先日アークに持ち帰って来た『賢者の石』の話はもうご存知ですよね?」 それひとつでは力は無いが、使いようによっては強大な力と成りえる代物――賢者の石。 崩壊へと近づくこの世界で、近日発見されるようになってきているが、関係性は不明。 アークの研究者達が、その持ち帰ってきた賢者の石を分析し、その波長を利用して他の賢者の石を万華鏡で察知することに成功した。 「その賢者の石を持ち帰って来て欲しいというのが、今回の依頼です」 先日、『シスター』カルナ・ラレンティーナ(BNE000562)が無事に生還した。 彼女から告げられた情報を元に『その賢者の石を利用し、アシュレイ達が大規模儀式を行い、何らかの穴を開ける』という推測にアークはたどり着いた。 飽くまで推測の域を出ないが、彼女達の手に渡って安全というものでは無いのは分かりきっている。 「もし、それがアークへと持ち帰られた場合、武器の性能や、アークの設備等にも影響を与えてパワーアップ! ということもあるかもしれません!」 賢者の石の可能性は広い。 それはそれとし、敵についての話を始める。 「知っている人は、知っているかもしれません。後宮・シンヤが精鋭、クレイジーマリアです」 マグメイガスとしての力も長け、恐ろしいアーティファクトを器用に使うフィクサードだ。 見た目は金髪白翼の天使の様な少女だが、その心は冷えきっている。 「彼女自体は以前と戦闘能力は変わってはいませんが、問題はアーティファクトです」 前回は『苦悶のテディ』だったが、今回は『最悪堕天のテディ』。 アシュレイの力によってその力を更に上げてきたようだ。 「エリューション、アルメレミルを生み出す速度が早くなっているようです。勿論、持ち主への制約も厳しくなっている様です。でも前回8体と退治して倒し切れた事もあります。下手をしなければ、大丈夫でしょう」 場所は前回と同じ教会。 そこで両手に賢者の石を持ったマリアが、地下から血まみれで出てくる様だ。 その血は返り血であるが、アルメレミルを4体連れている。 「賢者の石を持ち帰るために隙あらば逃走するでしょう。堕天落としには気を付けて」 杏里は深々と頭を下げる。 「絶対に、死なないで、戻ってきてください。お気を付けて……お帰りをお待ちしております」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:夕影 | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 2人 |
■シナリオ終了日時 2011年11月27日(日)22:45 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 2人■ | |||||
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●堕天 リベリスタが教会の扉を入った頃には、哀れなフィクサード達の断末魔は事切れていた。 『レーテイア』彩歌・D・ヴェイル(BNE000877)がその目に秘めた神秘を発動し地下への階段を見れば、登ってくる生存者の温かさを持った物体。 「来ますよ、もう数秒もしないうちにご対面ですね」 彩歌がそう仲間に告げれば、各々が自らへと強化スキルを纏う者もいる。 間も無くやってくる敵。だが、足音は聞こえない。聞こえるのは、羽音。 「あらー? あーらあらあらあらあららららら!!」 地下から飛び上がる様に出てきたのはクレイジーマリア。 その羽が翔く度に、今しがた浴びた血が軌跡を描き、周囲に飛び散る。その血は雨の様にリベリスタ達の身体へも付着していく。 その目でリベリスタを捕えたマリアが、嬉しそうに空中で足をバタつかせた。手には、べっとりと血の付着した――賢者の石。 「ハイ、また会えて嬉しいよ。新しいお人形?」 『Trompe-l'œil』歪 ぐるぐ(BNE000001)が口元に着いた血を拭いながら言う。オッドアイの目はマリアから離れず、ぶれず。 ぐるぐの問いかけに、無邪気に笑う顔を何度も縦に振ったマリア。その手の中の賢者の石を舐めながら、見下した目線でリベリスタへ言う。 「知ってるよぉ? 無様に床へとキスをした人達だよねぇ?!」 それだけ言うと、少女らしい甲高い声……いや、叫び声に近い声で笑い始めた。まあ、ただの思い出し笑いなのだが、なんて凶悪で性悪な笑い声か。『臆病ワンコ』金原・文(BNE000833)がその耳を両手で抑えた。 「マリア、今度こそ、あなたとお友達になりに来たわ。そのためにも、決着つけましょう」 『みにくいあひるのこ』翡翠 あひる(BNE002166)がマナサイクルの加護に身を包み、マリアを見上げた。 あひるの声を聞いた途端、教会はしんと静まる。 笑い声の止まったマリアが、光りの通さない濁った瞳であひるを映す。それは心底、困り果てた様な顔。 「阿保臭いのよ。雑魚のリベリスタなんて遊んだらすぐに壊れるじゃない。人形にもならないわ」 やだやだと、身体の前で片手を振った。 「いやー、なかなか嫌味なお嬢さんだねー」 それを見たアゼル ランカード(BNE001806)そう零せば、マリアの目とアゼルの目が交差し火花が散る。 それを遮り、自らをマリアの目線に入れようと間に入ったのは『運命狂』宵咲 氷璃(BNE002401)。 「ごきげんよう。マリア、また遊びに来たわ」 運命の導きか、それともただの偶然か。ぐるぐ、あひる、そして氷璃は、マリアと対面するのはこれで2回目である。 各々の思いは違えど、目的は同じ――今度こそ、マリアを止める。 それはもしかしたら、3人にとって賢者の石よりも優先事項となっているかもしれない。 「お出掛け前に、私達が遊んで上げるわ」 氷璃をその目に、マリアが再び喋り出す。その言葉に氷璃の手が少しだけ動揺したようにピクリと動いた。 「貴女は、前そう言ってたね」 マリアは地上へと舞い降りながら話を続ける。 「言い直して、返しましょう」 そしてその足が地に着いた。 それは、デジャヴ。場所が場所なら、立ち位置も前と同じ。 「あの世にお出かけする前に、マリアが遊んであげましょうってねえええ!」 今度はお腹を抱えて笑い出したマリア。その回りに今しがた地下から出てきたアルメレミルが4体囲んだ。 「気を引き締めて行かないと、ね」 『後衛支援型のお姉さん』天ヶ瀬 セリカ(BNE003108)がアーバレストを片手にマリアを見る。 「1人じゃとても無理だけど、みんなとならやれない相手じゃ、ない筈」 響くマリアの笑い声に、セリカは息を飲んだ。 「ああ、全くだね。見逃せない……ほおって置けない子だ」 セリカの言葉に『イエローナイト』百舌鳥 付喪(BNE002443)が頷く。子供らしい真っ直ぐな憧れは、残酷なまでに素直で、そして純粋だ。 その少女が手を広げ、リベリスタに呼びかける。 「歌ってね、死に際の豚の様な断末魔を――!!」 ●クレイジークレイジークレイジー 「ほらほら貴方達全員遅いのよ!!」 マリアが笑い飛ばしながらリベリスタ達を蹂躙する。 首を噛み付く痛みに耐え、血を地面へと流し続け、それでも目に映るのは大義と好意。 マリアが願えば、ぐるぐ、彩歌、文の足元から炎が舞い上がった。マグメイガスらしく、フレアバーストを放つ。 だがそれ相応の手応えがマリアには感じられない。まさか、とその眼が見たのは『食欲&お昼寝魔人』テテロ ミ-ノ(BNE000011)。 手応えがおかしいのも、そりゃそうだった。テテロがマリアよりも先に動き、展開したのは守護結界。それがマリアの炎から少量でもダメージを抑えたのだ。 若干だがその右目の下がぴくぴくと動いたマリア。さっさと賢者の石を持ち帰りたい彼女にとっては、この場の戦闘も迅速に終わらしたいのが本音でもある。 「あーもーいきなさい!!」 その言葉に反応したマリアの後方に居た2体のアルメレミルが動いた。 そのアルメレミルと交差するように、ぐるぐがマリア前方の1体の人形の元へ飛ぶ。 燃える身体だが、それがなんだ。まずは眼の前の壁さえどうにかすればそれでいい。 そして数十秒後には、横に見える彼女――そう、マリアへ手が届けば。 流れるようにアルメレミルの関節部を打ち抜くノックダウンコンボを放つ。それがコンセントレーションの加護をも受け、本来以上の威力で炸裂した。 「ふぁあ! こっちきたぁ!?」 その後方で、今しがた交差した2体のアルメレミルが文へと切りかかる。 例え不出来な人形であろうが、その爪は硬質かつ殺傷力も甚大。文の柔らかい肉体を切り裂き、肉を抉り、血風が飛ぶ。 文は目の前のアルメレミルに攻撃することもできたが、今はまだその時では無い。眼前に敵がいるという恐怖はあるものの、それに屈した訳では無い。 もう1体が彩歌へと向かい、同じように切り裂いた。 「くわ……」 仲間の血が流れた。何度も見てきた、その光景。 あひるの顔にも着いている血。マリアが飛び出た時に浴びた血が涙の様に流れ地面に落ちた。 マリアは血塗れ、アーティファクトに身を投げ、その目に光さえ灯らない。それを全て変えに来た。 「あひるだって……護れるんだから!!」 広げた絵本みにくいアヒルの子は、主の思いに応える様に光り輝く。 その絵本の内容。最後は最高のハッピーエンドが待っているのを一番良く知っている。 そして支えるべきは、仲間。その力をあひるは持っている。放つブレイクフィアーは光りとなり、仲間の出血を止める礎と成る。 「マリア!」 普段はそんなことしないだろう。が、あひるは叫んだ。 「賢者の石は、あひるたちが、頂く……石もマリアも、ココから出さない!」 その言葉にマリアは、1度だけ小さくハッと笑ってみせただけだった。 「黙っていれば、可愛いってこのことかなー」 ブレイクフィアーに合わせて天使の歌が教会に響いた。 リベリスタの傷は、アゼルがきっちりと治していく。 「きっとやってみせるわ。いえ、やり遂げてみせる」 氷璃が動き出す。 何度夢に見たことか、クレイジーマリア。前回できなかった全てをやりに来た。 無意識に手に持つ箱庭を騙る檻に力が篭った。生み出すのは、マリアと同じく、異界の炎。 マリアを中心に赤い炎が燃え上がる。1体のアルメレミルを攻撃していたぐるぐをも巻き込んでしまったが致し方ない。 その寸前でマリアの前方にいたアルメレミルがマリアを庇い、その炎を自ら受けた。 燃え上がる2体の人形。その時。 パァン 音が、した。 それは何かが弾ける様な、弾けて千切れた様な。 嫌な予感に右を向いたマリアは、瞬時に分かった。 ――アルメレミルが1体消えた。 「残念だけど、これで1体目は倒したね」 氷璃のフレアバーストの炎の中で、付喪のチェインライトニングが人形を貫いていた。 ぐるぐの攻撃を受けてからの、それに耐え切れなかったアルメレミルが1体消えた。 「は、え?」 マリアのアーティファクトも成長したが、成長したのはリベリスタも同じということ。 「ふふ、魔法は楽しく派手に使うのが一番だよ」 金色の鎧の下から笑ってみせた付喪。その笑い声がマリアの耳にはやたらと聞こえてくる。 遠距離的な攻撃の群れは確実にアルメレミルを捕らえていく。 「たかが1体殺ったくらいで調子乗んじゃないわよ」 ●クレイジークレイジー セリカが直線上にマリアとアルメレミルを捕える。 更にアルメレミルが2体減ったマリアには壁となるのはたったの1体であり、まさに狙い時。 「吹っ飛ぶといいわ」 アーバレストから飛び出す1$シュート。それはマリアへと直線的には向かう。 だが阻まれることは想定内だ。本能的に持ち主を守るアルメレミルを間接的に攻撃を直撃させるための光弾。 勿論それはアルメレミルへと直撃し、その身体を粉砕した。 「壊れたものの……そう簡単にいかないなんて、手厳しいのね」 飛び舞う綿、地面へ落ちる布。アルメレミルの残骸――その後ろで、マリアは笑う。 セリカ達にはその意味が分かっていた。例え人形を倒した所では、まだマリアには届かないということが。 「これでまた……30秒か」 ふと、アゼルがそう言ったその瞬間。 増える。 完全で無傷。新たに生み出されたのは4体のアルメレミル。 これで何度目だろうか。状況はリベリスタ以外は振り出しに戻る、アーティファクトの能力。 「まだ……まだ負けた訳じゃないからっ!」 教会に響く堕天使の笑い声を聞きながらも、文がそう声をあげた。アルメレミルのすぐ近くにいるぐるぐが、その声に背中を押される。 再び放つノックダウンコンボ。攻撃をしながらも、その顔は笑う。 「そうだね、まだチャンスはきっとある」 何回目かの30秒が経った。ただそれだけの話ではないか。まだこの先チャンスはある。 「人形を見るのは、しばらくこりごりになりそうね」 切り裂かれて、血が出続ける彩歌。だが、痛みなど感じさせないくらい論理演算機甲オルガノンを、力強く持つ。 サングラスの下から覗く碧眼の瞳で、ぐるぐが攻撃し終える姿を見た。 「だから、もう人形遊びは終わりにしましょう」 オルガノンに内蔵されている気糸が飛び出し、その後ろから出た氷璃の魔曲と一緒にアルメレミルを襲った。 だがその中心で、マリアは笑い続けた。 遊んでいる、遊んでくれている。楽しくて楽しくて、死ぬか生きるかのギリギリのラインでの奪い合い。 「いけない方向に、向かってしまっているんだね」 哀れんでいる訳では無いが、曲がったのならば誰かが正せるうちに、正さなければいけない。 付喪が再びチェインライトニングを放つ。 マリアの耳に隣で人形が破裂した音が聞こえたが、ただの壁がひとつくらいなんだ。 その口から涎を垂らし、目は虚ろ。氷璃の炎の中で、笑い嗤いながら攻撃する。 常時流れ続ける血が、動き絡まり鎖となる。高速詠唱で組み上がった葬送曲はリベリスタには感知ができない。 「楽しいよ! だからプレゼントあげッぐ」 葬送曲は自らにもダメージはあるが、そんなもの無いものと同然。まず鎖がぐるぐを飲み込み、その後ろへと伸びて、伸びて――。 アルメレミルの影となった彩歌は難を逃れ、文はその鎖が腕を擦る。 マリアの直線上にて攻撃していたセリカには鎖が直撃、その前方に居たアゼルにも当たってしまった。 セリカとアゼル、そしてぐるぐの身体からは出血し、猛毒が回り、なおかつ動くことができない。 すぐに『ディフェンシブハーフ』エルヴィン・ガーネット(BNE002792)がブレイクフィアーを放つ。 そして最後にアゼルが動く。 「回復はお任せーってねー」 葬送曲で傷ついたリベリスタ達を癒していく。完全とはいかないものの、その力はパーティーの要。 歌は教会に響き渡ったが、マリアが不機嫌そうに耳を塞いだ。 氷璃はマリア自身を救いに来た。 望むのは、賢者の石なんかよりもマリアが改心し更生し、血で染まった翼を白くする事。己の姉妹達に似るマリア。重ね合わせている訳では無いが、今度こそ救ってみせる。 氷璃は運命に呼びかけたが、それに運命が応える事はなかった――だが、まだ諦めない。 「ねえマリア、私のものになりなさい」 氷璃が魔曲を紡ぎながらもマリアに問いかけた。氷璃の魔曲はマリアへと伸びるが 「ふふ、なぁに? マリアはシンヤ様のものよ」 返答は分かりきっていた。 魔曲はアルメレミルによって防がれてしまう。 文が走り出し、前方のアルメレミルへと向かった。ブレードナックルを構え、黒いオーラを身に纏う。 「諦めてよねぇー、もうほんっとにー」 呆れた様子でマリアが文を見た。文はアルメレミルに攻撃を仕掛けながらも、目線はマリアを見ていた。 「貴女には、負けないっ。シンヤにも、負けないって決めたんだから!!」 その強い意思が応えている様に、ブラックジャックがアルメレミルへと食い込む。 マリアはシンヤを信じるのならば、文はアークを信じる。背後にいる大きな存在はそれぞれ違えど、似ていると言えば似ているのかもしれない。 だからこそ、譲れない気持ちも同等である。 食い込んだオーラがアルメレミルを粉砕した。その文の瞳にマリアの背筋が冷えた。 あと20秒残し、残り2体。 楽しさ、面白さに身体が震えていたマリアが、初めて恐怖で震えた。 手の中の賢者の石の上には、血と一緒に汗が滴り落ちた。 ●クレイジー 呪縛を断ち切ったセリカが最後のアルメレミルを破壊して――残り10秒。 アゼルの回復をその身に受けながら、体勢を立て直す。 「これで、壁は無いねマリア」 付喪がすかさずマリアへとマジックミサイルを放ち、マリアの頬を擦る。 だが、いたって冷静なマリア。というか冷静である事は異常だろう。笑い、蹂躙し、口が動くマリアが静かであることは、何かの前兆とも言っていいかもしれない。 「壁ねぇ」 目を瞑る、なんて無防備な状態か。 ぐるぐや文が手を伸ばせば賢者の石にでも届くやもしれないその距離。 まさか、と。ぐるぐと氷璃が感じた事のある緊張感をその身で感じた。その瞳で視て、躰で受けて、苦汁を飲まされたその技。 「そォんなノ無クてモ、ヮたシにはコれが有るノよ?」 マリアが勢いよく空へと舞い上がり、爆発的に魔方陣を展開し始めた。 小さな身体にも陣が浮かび上がっては、その陣の一部と成し、それが繋がり繋がり、描かれる――堕天落とし。 氷璃がその陣を同じく頭に描く。前回見たそれと照らし合わせながら、足りないピースを埋める様に。 「神様のトコいくなら一緒にいこーよ」 柔らかく笑いながらもぐるぐがマリアの眼前まで飛び、マリアの身体にしがみつく。 「目隠シ? 無駄でしョ、位置なンて把握してルもの」 そんなぐるぐを余所目に、陣は完成していく。 「……ちょっと神様も味方して下さいよ」 虚空に願う、歪曲への誘い。惜しくもそれは叶わなかったが、その気持ちだけでも十分。 ――マリアの眼前から放たれた黒い閃光は、リベリスタを射貫く。 四肢が石と化したぐるぐと一緒にマリアが地上へと落ちた。 流れ落ちる血。食い込む牙。常時体力を削られるマリアにとっては、堕天落としは一種の賭けだったかもしれない。 ぐるぐの腕を抜け出し、床を這いながらも羽を広げる。 「マリアの……勝ち、あは、はは」 不自然に笑みが溢れた。賢者の石を持ち帰れば、大義。だが 「ここで逃げ帰ったって知ったら、シンヤもガッカリじゃない?」 放たれたのはあひるのマジックアロー。 「な、んで、貴女動けて!?」 マリアがそれに射抜かれながら、あひるの後方を見ればミーノ、そしてエルヴィンが笑った。 「……おまえらあああ!!」 咆哮しながらも、崩れ落ちるマリアの身体。 それと共に最悪堕天のテディがマリアの身体から離れた。 次、アルメレミルを召喚し、体力を持っていかれれば明らかに死の文字が見える。 床に倒れたマリアの手から、紅い賢者の石が転がり転がり。教会の壁に静かにあたった。 「マリア、もうやめよ……アーク、行こ?」 這い蹲りながらも、賢者の石へ手を伸ばすマリアへあひるが話しかけた。 「元フィクサードの人もいるの。だから……マリアとも仲良くなれると……信じてる」 あひるの指の先はあくまでマリアを捕える。マリアが飛び出せばマジックアローが飛ぶが、けして殺したい訳では無く。 「あひる、マリアと友達……なってもらうために来た、だから」 「ここでマリアを殺さなかった事、絶対後悔させてやる」 あひるの言葉を中断させ、翼を広げ壊れた窓へと向かったマリア。それをあひるがマジックアローで追ったが、テディを掠る程度で終わる。 気力か、根性か。 石化を断ち、飛び上がったのは氷璃だった。 「待ちなさいっ、シンヤの下へ帰ってはいけない!」 伸ばした手はマリアへは届かず、虚空を掴む。代わりにマリアが流し続ける血をその身体で浴びた。 マリア壊れた窓にたどり着けば、一瞬だけこちらを向いた。 ――友達 それだけ言い、窓の奥へと消えていった。 教会の十字架の下。紅い賢者の石が煌いている。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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