●諦めないでっ、あなたの未来(いま) とある山中。 「……くそっ」 その呟きは短く吐き捨てられた。 日頃の彼女を知るものであればその落差に、現状がいかに苦境かを知る事が出来ただろう。 それは見目にも及んでいる。 卵のようなつややかさが自慢の緑肌は忌々しい粘液に汚れ、所々を鬱血と出血が醜く彩っている。 同じく緑の長髪もまた長き戦いで汚れ、疲弊から艶を喪っていた。 異相を持つそのおんな、名をメトと言う。 俗に河童と呼ばれる姿を持つ、この世界に対し友好的なアザーバイドだ。 「『一人で出来る事など限られてる』か……全くだね……」 かつて接触し加勢を受けたリベリスタの言葉を思い出し、皮肉に笑う。 チームプレイの力。あの時、それを学び強く実感した。 だからこそ、今回とて可能なら彼らの所属する『アーク』に連絡を入れ、加勢を頼んでいただろう。 そうすれば今の様な状況にはならなかった筈だ。 ――だがそうすることは出来なかった。余裕が、時間が無かったのだ。 彼女が見つけた時はもう、手遅れだったのだ。 既にバグホールは開き切り『奴ら』が進軍を始めていたのだ。 ボトムチャンネルで運命の導きを得て以来、ただひとりで他世界の侵略と戦っていた彼女だ。 放置すればこの世界に致命的な打撃を与えうるその侵食を、見過ごす訳には行かなかった。 ――うぞり。うねり。 だが現実は理不尽だ。 前回同様、『敵』と彼女の相性は最悪である。 不気味に歪んだ楕円型をした『奴ら』の群。群。群。 おびただしい数のそれらを、形を持たぬ粘体で繋ぎ、運び、時に束ねて四肢の代用とさえしている。 染み出る異臭は鼻の粘膜に染みるほど濃い。ともすれば芳香だとすら感じてしまいそうになるのは、脳や神経すらもそれに侵され出しているからなのか。 倒せど倒せど尽きせぬ『大軍』。 それは個対個の戦いを得意とし、スタミナに欠けるメトにとって天敵といって差し支えない存在だ。 まして、それは未だに開いたままのバグホールから止め処も無く来訪し続けている。 ――状況は、絶望的。 だが。 「けどねぇ。あたしにも、意地があるのさ!」 ぱん! と両手を高らかに打ち鳴らす。 身を、気力を振るい起こし、構えを取る。 負ける訳にはいかない。絶望ごときに膝を折りはしない。 諦めるものか。絶対に。 「はっけよぉい!」 その声が、山林に響く。 ●軍団を討て 「彼女は敗北する。それは確定事項。一人のままなら」 そう告げて『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は静かに瞑目する。 「彼女は『かっぱ』。フェイトを得て、この世界に留まり続けているアザーバイド」 再び開いた少女の瞳には、真剣な色が溢れていた。 「彼女は以前アークのリベリスタと接触している。 その時は共闘によって敵性アザーバイドに無事勝利、バグホールも閉じる事が出来た。 ――もう一度、彼女を助けてあげて。 今から急いでいけば、彼女が倒れるより先に加勢できる。 前回の接触で彼女はこちらに好感を持ってくれてるから、大丈夫。 アークのリベリスタだって言えば、その場で共闘を受け入れてくれるよ」 そう口にする少女に、リベリスタ達は力強く頷く。 この世界を守ろうと戦い続けているアザーバイド。 故郷が違うとは言え、彼女はある意味でリベリスタ達の同志だ。見捨てるなど出来よう筈もない。 頼もしいリベリスタ達の返事に満足げに頷きながら、イヴは続ける。 「敵性アザーバイドは群生生物。 固体ごとに豆粒サイズの楕円形の核と粘液状の体を持ってる。 ただ、粘液は……蜘蛛の吐く糸のようなものだと思ってくれたらいい。 攻撃は核、それぞれにしないと意味が無い」 彼らの一体一体は非常に弱い。 ある程度以上の威力がある攻撃ならば一撃で倒せるだろう。 「けれど、数は膨大。しかも粘液を通して意識を半ば共有しているから、連携は完璧。……手強いよ」 個にして全、全にして個の存在。 まさに『軍団』。 リベリスタ達は次々と立ち上がった。 一刻も早く、難敵と戦っている彼女を助けに行かなくては。 「貴方達ならきっと大丈夫。けど、油断はしないでね」 頷き、退出しようとするリベリスタ達に、イヴが最後の情報を投げかける。 「それと、彼ら『納豆レギオン』だけど、倒した後なら食べても問題無いよ。 とても美味しくて、ビタミンもタンパク質も、豊富」 待て。 今、なんて言った? |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:ももんが | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 2人 |
■シナリオ終了日時 2011年11月22日(火)23:20 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 8人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
■サポート参加者 2人■ | |||||
|
|
● 異臭と異形の犇く戦場。 自らの体が限界を訴える音が、そして死の足音が聞こえる。 諦めてはいない。 ――だが、既に身体が心に付いて来ない。 重い打撃を受け止めた右腕が、己の意思とは無関係にだらりと落ちている事に気が付いて、メトは血で汚れた顔に苦笑を浮かべた。 どれだけの苦境に立とうとも、自分は自分だ。 無論、死ぬまで諦めない。だが――死の足音が、目の前で自分を誘っているのがわかる。 (畜生……) 内心だけで呟く。声には出ない。先の一撃で喉が潰れているのだ。 「待たせたな、我が友(ライバル)よ!」 だから最初、それは。 今際の幻だと思った。 赤いマントを翻す彼は、確かに記憶に刻まれた知己の顔。 どうせ幻なら御迎えは雷電為右衛門が良かった。 見えた姿に戸惑うメトに対し、彼は頼もしく笑ってみせる。 後、その澄んだ瞳が裸身に髪のみをまとうメトの胸を真っ直ぐ見つめていた。 あー、これ幻じゃないわ現実だわ。 友のピンチもおっぱいぽろりも見過ごさぬ男『原初の混沌』結城 竜一(BNE000210)の歪み無さに気力と意識を取り戻せば、駆けつけたのは彼のみでは無い事に気付く。 「フェイトを得ているなら、この世界に愛された仲間だろ? 助けるのが当たり前。ソレに意地のあるかっこいいねーさんは好みだぜ」 一瞬炎に見えたそれはファイアーパターンの描かれた黒いトンファー。 見覚えの無いその男、『高校生イケメン覇界闘士』御厨・夏栖斗(BNE000004)は端正な顔に人の良い笑みを浮かべる。 「あと髪ブラえろっ」 あー、なるほど竜一の仲間だ。と言うか同類だ。 物凄く合点の行った表情を浮かべたメトに、今度は見覚えのある顔が声をかけた。 「手伝う、よ」 『ゼログラヴィティ』星川・天乃(BNE000016)が短く、けれどこの世界のために戦ってくれている彼女への変わらぬ感謝と死なせぬ決意を篭めた言葉をかけてから、納豆除けのための仮面を着けると『軍団』に向かう。 「一度下がって回復を受けてください、怪我が癒えたら一緒にお願いします」 共に戦おうと、面識があるだけあってメトの気性を慮った言葉をかけて来たのは雪白 万葉(BNE000195)だ。よく分かってるじゃないかと声こそ出せずともメトは笑い、素直に従って後ろに下がる。 「すぐに万全の状態に戻す」 「南無阿弥陀仏。今日はアンタを守ればいいんだな」 素直に指示に従うメトにサングラスの奥から感謝の笑顔を向ける『ディフェンシブハーフ』エルヴィン・ガーネット(BNE002792)と、癒しの符を取り出した徳の高そうな雰囲気ながらも制服姿の『てるてる坊主』焦燥院 フツ(BNE001054)に治療を受けながら、メトは改めて戦場を見る。 「とりあえず、まずはぶっ飛ばしましょう」 ギアの上がった身体に力をみなぎらせ、更に足元の影をゾロリと蠢かせる『第4話:コタツとみかん』宮部・香夏子(BNE003035)。 「納豆に好きも嫌いも無いが、斯様な有様では流石に良い心持になれぬ」 嘆息を吐きながらフィンガーバレットを構える『我道邁進』古賀・源一郎(BNE002735)。 「なっとー! だいすきだぞ! だがかっぱもだいすきだ!」 無邪気に宣言する『エリミネート・デバイス』石川 ブリリアント(BNE000479)は一見古風な太刀を手に握る。 「メトさんひさしぶりなのです! 助太刀致す!のです!」 太陽の様に陽性の笑顔と声。構えるは何時かと同じ槍斧ヒンメルン・レーヴェ。 「わたし! まえより少し強くなったです! 勝って! むすびのいちばん! よろしくです!」 元気一杯意気軒昂、横綱を目指している(とメトは信じて疑ってない)勇者の卵、『あほの子』イーリス・イシュター(BNE002051)。 メトは治療でようやく治った喉を震わせ思わず笑った。 これが仲間か。 ついさっきまで絶望の権化だった『軍団』達が、今ではもう全く怖くない。 脳を冒す異臭はただの豆の発酵臭。うごめくそれらは、量が多いだけの納豆だ。 これが仲間だ。 前回も思い知った事を今、更に強く思い知る。 もう何も怖くない。まるで負ける気がしない。 ――何と心強い事か! 「図々しくて悪いけど、治療急いでおくれよ。こっちはもう火が点いちまってるんだ!」 早く、早く彼らと肩を並べて戦いたくて仕方が無い。 ● 「すっげえ匂いだな。納豆バチルス菌」 納豆の臭いに、夏栖斗が眉根を寄せ、愚痴を零しつつも身体は動く。 火炎を纏った拳が軍団の一部を焼き納豆に変え、その拳を中心に芳ばしい豆の焼けた香りが漂う。 「納豆です。カレーに入れるアレです」 三メートル程まで伸びる黒いオーラを振るいながら、マスクをした香夏子が断言。 「え!?」 その声を聞いたリベリスタたちの何人かが、一瞬だけ手を止めて彼女を見る。 「あれ? 入れませんか?」 人によると思います。 ともあれ全身の反応速度を高め、意思を与えた己の影にその動きを補佐させている彼女の動きは素早くかつ的確。振るわれた一撃は着実に納豆レギオンの核を砕いていく。 「ひきわり納豆、にしてあげる」 軽やかに舞う天乃の周囲、腕につけたクローによって次々と切り裂かれた納豆達が力を失っていく。 己が振るう刃の舞に仲間を巻き込まない様に少し離れた位置で戦う天乃は納豆を刻む傍ら、レギオンの源泉であるバグホールを探して周囲を油断なく見回した。 「わざわざすまないね」 後方、メトの傷は深く未だ万全とは言えず、引き続き治癒を行う二人にメトが少しはにかむように謝る。 「なに、強くて格好良い美人さんの危機とあっちゃねぇ」 喚起した癒しの微風を傷口に当てながらエルヴィンはそう笑い、メトは上手いこと言うねえと大笑した。 そんなやり取りを背に、中衛として納豆達の動向を警戒している万葉は薄く笑顔を作る。 ――あの調子ならば間も無くメトは戦線に復帰できるだろう。 スタミナに欠けるとはいえ彼女の強さは前回の共闘で目の当たりにしている。彼女がリベリスタ達を心強く感じたのと同様に、彼女もまたリベリスタ達には心強い戦力であり、仲間なのだ。 近場では源一郎がフィンガーバレットからの早撃ちで、仲間の背後に近寄っていた納豆の塊を撃ち抜き散らしている。 「死んだ核だけが良い核だ!」 源一郎のフォローに気付いているのか居ないのかブリリアントは太刀に全身のエネルギーを集中させ、手近な納豆に闇雲に叩き付けて叫ぶ。 「大丈夫! 最初の内は闇雲に殴っても生きている核を叩ける!」 ――粘糸によって全てが繋がっている納豆レギオンは死んだ個体と生きた個体の見分けがつかない。 逆に言えばほとんどの納豆が未だ生きている今は別段気にする必要が無いのだ。 見目に反し科学技術の結晶である彼女の得物は納豆の塊を容赦なく打ち据えて納豆の進軍を押し返す。 「広域殲滅能力に俺は欠けるからな」 己の不向きを認め、ならばと前衛の壁役に徹する竜一はエネルギーを篭めた二刀を存分に振り回して発酵大豆を吹き飛ばし、こちらもその進軍を大幅に押し返し続けている。 「ゲートはどこですかー!!」 最も前方では全身に破壊的な闘気を漲らせたイーリスが猛っている。 リベリスタ達は先ず納豆の補給を立つため、バグホールを閉じる事を重視していた。 ――仲間が戦いながら納豆レギオンを引き付け、天乃の刃の乱舞とイーリスの突撃が道を切り開く。 「その道に夏栖斗さんをまかりとーらせるのです!」 そういう作戦。 なのにゲートの位置が未だ見つかっていないのだから、猛るのも無理はない。 「あー! そうか穴か!? イーリス、ゲートならあっちだよ!」 後方のメトが怒鳴るようにしてイーリスの注意を引き、ある方向を指し示した。 バグホールを見つけ、それからずっと戦っていたメトである。余裕が無く作戦内容を説明されなかったため気付かなかった彼女だが、イーリスの叫びを聞いて状況に気付いたのである。 すぐさまイーリスはその方角を確認し、感謝の声を上げると今度こそ狙いを定めた突貫に移った。 「ゆけっ、カズト! チームワークの力を見せてやれ!」 竜一もまた声を張り上げて納豆を押し返した。 正確な位置こそ分からなくとも、狙うべき方向を知った他のリベリスタ達もその動きを力強くする。 だが勿論、それを黙ってみているアザーバイドでは無い。 うぞる うねり うぞり 数多の核達は粘糸を通して絡み合い、まるで巨大な腕の様な形を為して行く。 「広がり投網状になって近くの人を包むイメージでしょうか」 万葉が何処か呆れたように呻く――その予想は正解だった。 捩りあわされて指の様に何本も伸びる納豆の枝は、掌のようであると同時に投網のようにも見える。 しかし予想通りであっても、木々をなぎ倒し、指の一本だけでも人間の身長を優に上回るその『ぱー』を目にしてはもはや呆れるしかない。 手のひら(?)が振り下ろされ、前方で戦っていたリベリスタ達が納豆の塊に叩き伏せられる。 続いて今度は納豆の拳(横幅3m)が香夏子を狙って振り下ろされるが、水着姿の少女は飛びのくようにしてこれをギリギリかわした。 「どぶけらどぷす!?」 更にもう一発。 ブリリアントはこれをかわしきれず、脳天に巨大な拳骨をお見舞いされよく分からない悲鳴を上げた。 その三連打、正に猛威。 バグホールを塞ぎに数名が本隊から離れている間、耐え切れるのか――リベリスタ達に不安が走る。 だが。 「あーもー我慢できないね!」 そんな叫びが、戦力の増強を高らかに宣言した。 ● 方角が分かれば後は簡単だった。 「……あそこ。見つけた」 「ぶぃーん」 天乃の鷹の目の如き視線が納豆の間を縫って穴を見つけ、香夏子が突破口を作り、 「ぶっこみゆくです! しょうめんとっぱぁ!」 イーリスが更に先までぶち抜いてみせ、 「――――!!」 口を真一文字に引き締めた(納豆侵入防止)夏栖斗の一撃が、『穴』を粉砕する。 納豆レギオンの補給は、ここに絶たれた。 「うしっ! ……さあ早く戻るぜ!」 快哉の声もそこそこに、夏栖斗は仲間の方を振り返り――その顔を引き攣らせる。 「うわーん!」 泣いているのはブリリアントだ。全身を納豆の粘液に覆われ呪縛されている。 竜一が彼女を守るように傍らに立つが、前線に立ち続けていた彼もまた、明らかに消耗が激しい。 フツとエルヴィンの回復は機能している。 ただ単純に、敵の攻撃力がその治癒力を上回っているのだ。 前衛に立てる二人がバグホールの対応の為に離れた以上、これは宿命ではあった。 「いそがないと!」 イーリスが叫び、そして二人は納豆を蹴散らしながら仲間のもとに走る。 「どすこぉい!!」 気合の怒号、そして踏み込みの轟音。 張り手一発で納豆レギオンの一翼に大穴を開けたメトがふうと息を吐く。 「仲間が居ると疲れにくくもなるんだね。御蔭で思ったより長くやれそうだよ」 その言葉に後方の万葉が笑みを浮かべ、しかし直ぐ表情を引き締めると警告を発する。 「レギオンが固まって盛り上がってきている……『ぐー』に警戒を!」 おっとと呟き警戒を強めるメトの隣に香夏子が立つ。 「丁度そろそろ手ごたえが薄くなってきましたし、後退をはじめましょう」 一瞬きょとんとしたメトだったが、万葉に口早に敵の特性を説明され長い睫を供えた目を瞬いて感心した。 「なるほど、死んだ豆と生きてる豆の見分けね。あたしじゃ絶対気付いてないわ!」 フツの邪気を退ける徳の高い光により呪縛から開放されたブリリアントが、グシグシと目元を拭いながら言葉を繋ぐ。 「うむ! で、あればじりじりと後退し、生きている方だけを引きずりだせば良いのだ!」 涙混じりながら意気を失わないその調子に、メトは後退をはじめつつ笑った。 「本当、強いねえあんた達」 「勿論だ! 士別れて三日なれば刮目して相待すべし! 以前会った時より成長してるぜ? 見よ、一流ペロリストになった俺の姿を!」 お前は何を言っているんだ。 だがメトは満足げに頷き、そりゃ頼もしいと大笑した。多分意味わかってない。 「無事か皆!?」 少し和んだ空気の場に、納豆の海を拳で焼き払い芳ばしい香りを立てながら夏栖斗が駆けて来る。 「うぐぐ……くさいのです」 続いて戻ってきたイーリスが呻くのも無理はない。 納豆レギオンは脅威と認識したリベリスタ達本隊の周囲に、戦力である自分達の核を結集させている。 少し離れた位置にあったバグホール周辺も納豆だらけではあったが、今やその密度は段違いだ。 「おおーし、役者が揃ったね!」 メトが笑う。 「じゃんけんは苦手じゃないんだぜっと!」 夏栖斗が軽口を叩く。 「ここぞしょうねんば! ねばねば!」 イーリスが宣言する。宣言だと思う。多分。 バグホールは失われ、『軍団』は有限と化した。 ならば後は、戦うだけだ。 ● 下がるリベリスタ達を逃すまいと、誘われるままに納豆がぞむりと追いすがる。 夏栖斗の鋭い蹴撃から出でるかまいたちが、天乃が踊る様に美しく振るうクローが切り刻む。 香夏子の伸ばす黒いオーラや幅広剣が、高精度な予測の下に万葉が放つ一撃が追い討ちとなる。 源一郎が素早く銃弾を放ち、ブリリアントが斬りまくり、メトがブチかます。 更に竜一とイーリスのメガクラッシュが砕く。 そうして後退すれば、先端部がほぼ瓦解した納豆レギオンの『生きている』部分がリベリスタ達を追うため突出する。そしてまたリベリスタ達はそこを狙う。 フツはレギオンに拒絶された交霊術を諦め、治癒と治療に専念。仲間の傷を把握し厳密な基準で回復の種別を使い分けるエルヴィンと二人の援護は、リベリスタ達の傷や不調を立ち所に癒していく。 攻防は安定していた。 だがそれでも、アザーバイドの一撃は重い。ましてそれが一度に3回続くのだ。 「笑止! こっこれはまさに『かわいがり』では無いか! それは私が貴様等にする筈だったのに!?」 納豆の集合体に過ぎないこのアザーバイドの知能は、低い。 だが長く戦えば、立ち向かってくる存在のうち一人ずつ狙う程度の知恵は回す。 そして常に最前線で目に付く者の内、それまでの攻防で最も御しやすかった者を選ぶくらいは出来る。 『グー』で3回。その全てがブリリアントに叩き付けられた。 泣き声さえも納豆の本流に飲み込まれ、後に残ったのは納豆に塗れ倒れ臥し、ピクリとも動けない姿――いや、体がビクンビクンと痙攣している。 口元を塞いでいなかった彼女は奔流の中で多くの『生きた豆』を飲み込んでしまったのだろう。 体内に入ったアザーバイドが、蠢いているのだ。本体に戻るために。 アザーバイドの動きは既に後退作戦の中でも目に見えて既に相当鈍くなっており、恐らく敵も限界が近い。式神を使ったフツの確認では逃げる様子も無く、今ここに迫っているのが戦力のほぼ全てのはずだ。 「どすこーい! いーりすらっしゅ!」 ならばここは一気に決めた方が良い。そう判断したイーリスが叫び、突貫した。 汲み取った仲間達もまた一斉に攻撃の態勢に移る。 「よぉし! あたしも虎の子の一発行くよ!」 メトが叫び、それまで一度も見せなかった構えを取る。 「助けないとですね」 万葉が短く言い、眼鏡を直す。 「仲間に助けがいるのに、こんなとこで負けるわけには行かないよな!」 夏栖斗も構えを取る。 「斯様な有様では是非も無い」 源一郎が格闘銃器の稼動部を鳴らす。 「ぶっつぶすぜ、納豆レギオン! ……うん、どうも締まらねぇ」 冗談めかして言いつつも、エルヴィンの目に宿る光は剣呑だ。 「香夏子の本気は止まりませんよ?」 香夏子があほ毛を揺らめかせる。――あほ毛? 「がんばってる竜一さんぺろぺろでもいいですよ?」 ※BNEは全年齢です。あとそれすると多分竜一君照れます。 「さっさと、終わらせて……相撲でも、取りたいし」 天乃の言葉は静かだが、しかし力強い。 「吹っ飛ばしてやる! 行くぜ!」 竜一が愛刀雷切(偽)を上段に振り上げる。 「はっけよぉい!」 その声が山林に響いた。 何時か聞いた様なその声はけれど記憶とは違い絶望に染まってはおらず。 希望と信頼、そして友情に彩られていた。 ● 木々の間に、納豆の臭いが漂う。というか漂いまくっている。 竜一になでられながらもハラペコ狼の香夏子がさっきからずっと食べ続けているのだが、本人曰く「食べおき」とのこと。3か月分くらい食べ心意気です、と言っていたあたり、食べ過ぎで動けなくなるのではと万葉は心配していたりする。 「俺は納豆キムチチャーハンをつくるよ!」 ついでにそう宣言する竜一。 ちなみにチャーハンの大火力をどうするつもりかと思っていたら、夏栖斗を捕まえようとしていたりする。 「ちょ、なんで邪魔するの!? 僕この納豆を土産に持って帰ろうと思ってるだけだよ!?」 騒がしいあたりは無視して、エルヴィンはずっと付けていたサングラスを外しメトに笑顔で自己紹介。 「初めまして、俺はエルヴィン・ガーネットだ。アンタみたいな素敵な美人にあえて光栄だ」 それを見て、メトが小さく吹き出す。 「はは、納豆塗れだとやっぱカッコつかねーな」 「まったくだねぇ、イロオトコが台無しだ!」 一方で本物のかっぱと一本勝負したい、と騒ぐ満身創痍のブリリアントは周囲に制止されていた。 いいからじっとしてなさい。 「きっとまだメトさんとの相撲は勝てないのです! 倒した納豆をたべて強くなるのです! 納豆すきになるです!」 気合を入れて、未知の食材に挑むイーリス。 その横では天乃が持参したお弁当に納豆を駆けて食べている。 「納豆ご飯……うまうま。メトも、食べる……? 食べ終わったら、相撲で一勝負」 「そうさねえ、あたしもお相伴に預かっていいかい? すごい臭いだけどさ、食べられるものなら食べてみたいね」 あくなく挑戦心。 「食べ終わったら一相撲ってのも、いいね、実にいい! よーし、いっちょ、やるとするか!」 高らかに機嫌よく対戦者を募ったメトの声に、何人かの返事が呼応した。 <了> |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|