●犠牲者が襲われる緊迫のシーンと思って読む努力をお願いします ズシィン! ズシィィン! ズシィィィン! 「な、なんだありゃあ!?」 その運の悪い酔っ払いが目にしたのは巨大なカバ。しかも、逆立ちして歩くという珍妙なオマケ付きという代物だった。 まずは、酔っ払って見た幻覚であると判断するのが順当な所だろう。 「ヴォー! ボッボッボッボ!」 だが、酔っ払いにとって一番正しい判断は、悲鳴を上げることでも、幻覚と思いクールに振舞うことでもなかった。 無茶な姿勢の割りにしっかりと鳴き声を上げた逆立ちのカバはいつの間にか、身動きできないでいる酔っ払いの近くまで来ていた。 そして、酔っ払いの存在などに気付かずに引き倒す。 ぷち。 ●現れたのはバカか、カバか、えーい、どっちでもいい! 「みんな、大変よ。カバが出たの」 「なにぃ!? バカが出ただと!?」 「カバよ」 いつも通りの無表情で『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)はブリーフィングルームのメンバーに依頼を告げる。 イヴちゃんの説明によると、現れたフェイズ2のイリューション・ビーストを退治して欲しいとのこと。その姿は逆立ちして歩くカバ。どうしてこんなイリューション化を果たしてしまったのか理解できない。ここは、世界の理不尽に対して怒りを燃やしていい所だと思いますよ、多分。 「これと言って、大きな特徴は持たないわね。見た目の通りの巨体からの踏みつけが主な攻撃方法。状態異常からの回復が早く、耐久力は高め。あと、知性はそれ程高くないわ」 「なるほど、見た目どおりのバカってことか」 「ええ」 あくまで淡々と説明するイヴちゃん。こういう時、無表情キャラって強いよね 「ところで、何でこんな所にカバなんかがいるんだ?」 「この際どうでもいいわ」 不要なことはばっさり切り捨てるイヴ。一応補足しておくと、付近の動物園からもカバが消えたなんて話は無い。本当に謎である。 「カバが現れるのは、この公園。人目もないし、被害者が出る前に戦闘に持ち込むことが出来るはずよ」 「よしきた! 任せておけ!」 その辺の手はずに抜かりは無し。イヴちゃん、マジ天使。 「それじゃあ、バカ退治よろしくね」 あ、間違えた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:KSK | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年11月19日(土)23:46 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●カバとの遭遇(あの曲をイメージして下さい) 「ヴォー! ボッボッボッボ!」 夜の公園にカバの鳴き声と足音が響き渡る。それは確かに鯨偶蹄目カバ科カバ属に属する種、カバの姿だ。全長およそ4m、どことなく愛嬌のある姿をした動物の姿だ。だが、このカバを見た動物学者は口を揃えてこう言う筈だ。「逆立ちして歩くカバがいてたまるか」、と。 「カバ、が……逆立ち? 一体どういう事じゃ? 何を表しているのじゃ? 高度すぎてわしにはようわからぬ……」 唖然とした表情で『紫煙白影』四辻・迷子(BNE003063)は呟く。このカバの姿に対して初見のものとしては妥当な所だろう。誰だってそうするはずだ。 「ふむふむ……今回の相手はおばかさんなのですね~」 さっきはそう言ったが、ありゃ間違いだったようだ。早速ここにそうでもない人がいた。来栖・奏音(BNE002598)は、のほほんとした様子で眺めている。「無邪気」で「動物好き」な彼女にとっては、受け入れやすい光景なのかもしれない。間違っても、他の特徴欄を見てはいけない。 「このカバ何処から来たんだろう? ともかく放っておくわけにも行かないか。ここでバカ……じゃなかった、逆立ちカバを食い止める!」 『正義の味方を目指す者』祭雅・疾風(BNE001656)は千里眼で周囲に人気が無いことを確認すると、途中言い間違えながらも戦闘態勢に入る。それでこそ、リベリスタの鑑である。と、その時、彼の耳にパシャパシャと写メを撮る音が聞こえてきて、思わずずっこけそうになる。 「うわ、何アレ、ホントに逆立ちしてる! メッチャ可愛い! でも、歯汚ぇなぁ、ちゃんと歯ぁ磨いてるかい?」 見ると、宵咲・刹姫(BNE003089)が携帯で撮影をしている。まぁ、現代人の感性ならそれも無理なからぬ所か。ましてや、彼女が三高平に来て初めての事件だ。むしろ、この位の振る舞いが出来る方が頼もしい。 ちなみに、カバの歯を小鳥が掃除する(要は小鳥がカバの歯に残った餌を食べているだけなのだが)なんてエピソードもある。残念ながら、この日本では望むべくも無いのだろう。 「バカを退治するです! ボクはバカじゃないですよ? 風邪引きますし、今年も夏に寝込んだです!」 一方で、妙な方向に盛り上がっている者もいる。『勇者を目指す少女』真雁・光(BNE002532)は全身の勇者の装備(っぽいもの)の確認をしながら、闘志を滾らせている。そして、それ以上に自分がバカでないことの主張に余念が無い。 「ばか…かばなのです!! ばか? 私じゃないのです! うぐぐ、どっちでもいいのです! 倒すのです!」 同様に『あほの子』イーリス・イシュター(BNE002051)は、『天獅子(ヒンメルン・レーヴェ)』をぶん回して気合十分だ。我々はバカ対アホという究極のタイトルマッチを目にしようとしているのかも知れない。とりあえず、ハルバードを振り回す時は、周りに当たらないように気をつけましょう。 「ヒポポタマス! 見た目も可愛いのに、水辺の強さはワニを越え、平地でもゾウ並に強いぞ! 愚鈍でも油断しないぞ!」 『素兎』天月・光(BNE000490)はやけに興奮した口調で、頭の兎耳を揺らしながら、カバの素晴らしさについて力説している。前世で何かあったとしか思えない。 とは言え実際の所、アレの元になったのがカバであるのなら、高い戦闘力を有していても不思議は無い。実はアザーバイトの類なんじゃないかって気もしているけど。 「ずっと逆立ちしていて頭に血が上らないのでしょうか? そこまでしてなぜ逆立ちし続けるのか……香夏子にはわかりません」 そんな疑問を『第4話:コタツとみかん』宮部・香夏子(BNE003035)がポソリと口にする。おそらく、誰もが胸の内に秘めている疑問に違いない。だが、出ちゃったものは仕方がない。人々が理解している世界の知識など、氷山の一角であり、不確かなものでしかないのだ。 と、ちょっとシリアス入れた解説を打ち破るように、刹姫が声を上げる。 「さて、それじゃあサクっとヤっちゃいますか。こまけぇこたぁいいんだよ!」 携帯を仕舞うと、刹姫は戦いに意識を集中する。さっきまでミーハーやってた人間の台詞では無いが、その切り替えの速さは賞賛に値する。 その言葉が合図となって、夜の公園の中、戦いは始まった。 ●カバとバトル(こういう時にはシリアスに) 「珍妙なエリューションだが、犠牲者が生まれる前に倒す!変身!」 ポーズを決めながら疾風は走り、幻想纏いを起動する。そして、勢いを利用して炎を纏った拳を放つ。それを真正面から受けるカバ。単に気付かなかっただけって話もあるけど。 「へい、カバさん、こっちだぜ」 誘導するように声を上げつつ、翻弄するように切り付けるウサギの方の光。これぞ伝奇アクションのヒロインといった風情だ。振るっている武器がニンジンにしか見えないのは、気のせいということにしておこう。 「とりあえず、さっさと倒して帰りましょう」 香夏子が呟くと足元の影が、彼女を守るように伸び上がる。確実に敵を殲滅するための戦闘態勢だ。準備に余念が無い理由は確実な成功を期しているからであって、敵のバカばかしさにあきれ返ったからでは無いと信じたい所だ。 「あたっく」 その時、戦場に似つかわしくない可憐な声が響き、戦場を光の矢が貫く。奏音の放った魔力の矢は見事にカバを打ち抜き、カバはさすがによろめいた。どうやら、直撃だったようだ。 そこに畳み掛けるように、勇者の方の光が飛び出す。何かを忘れて出遅れただけにも見えるが、隙を伺っていたようにも見える。 「ボクがバカじゃないところを見せ付けるです!」 全身のエネルギーをゆうしゃのつるぎに込めて切り付ける。すると、リベリスタ達の存在に気が付いたのか、器用に前足で逆立ちしたまま後ずさりし、カバはリベリスタ達に顔を向ける。 「ヴォー! ヴォー!」 戦いが始まったことに気付いて、気合の雄叫びを上げるカバ。別に「war」と叫んでいるわけでもないのだが、なんとなくそう聴こえた。 カバの臨戦態勢に同じく気合を入れるイーリス。全身に破壊的な闘気を漲らせて、さらにその闘気が雷気に変換されていく。 「せいせいどうどう、真正面からのがちんこなのです! 食らうです! 必殺の、いーりすまっしゃあー!」 周囲にまるで雷が落ちたかのような衝撃が走る。それだけの大技を喰らっても、なお、余裕を持つカバ。前情報どおりに、耐久力はかなりのもののようだ。それだけに、リベリスタ達も相応の備えをしている。 「あたいがいる限り、技の出し惜しみなんて要らねぇぜ!」 後ろに控えている刹姫がイーリスに自分の力を分け与える。一族の先輩方の教えを守って、彼女は後ろからの応援に徹している。 しかし、カバの方もただやられるだけではない。ようやく敵の存在に気が付いたカバは、地面に付いていた前足を持ち上げる。それと同時に、カバの体を覆っていた炎が消えていく。体表を薄い粘液が覆って、炎を消して行くのだ。 「血の汗だー!」 ウサギの方の光が歓喜の声を上げる。『血の汗』とは一般のカバが自分の皮膚を保護するために分泌する体液だ。殺菌効果を持つという説もある。どうやら、状態異常に強いというのは、この体液のお陰のようだ。 さて、カバの攻撃に話を戻そう。踏み付けはモーションが大きく、迷子は余裕を持ってかわせる筈だった。だが、彼女の頭に1つの閃きが走ってしまった。 (四足歩行動物のくせに逆立ちなんかするからじゃ。馬鹿め……馬鹿? ああ、カバが逆でバカか。なるほ……) 「迷子さーん」 奏音の声も間に合わず、迷子は踏みつけの一撃をもらい、もうもうと砂煙が上がる。もしカバに言語を解する知性があったら、「やったか!?」と言っていただろう。 「難問じゃった……わしでも今の閃きがなければ気づけたかどうか……」 迷子が砂煙の中、立ち上がる。幸い、戦えないほどではない。目で仲間達に自分の無事を伝えると、煙管を取り出し一服する。確実な一撃を相手に当てるべく、集中しているのだ。 迷子に頷き返すと、リベリスタ達は回りこんで、カバが逃げられないように包囲網を作り上げる。さらに逆立ちを支える前足に狙いを定めて、転倒を狙った。それに対して、カバは両前足を開き、重心を低くする自護体で対抗する。本気で、元がカバなのか疑わしくなってきた。エリューション化の進み過ぎた、別の何かじゃないかしら。 逃走阻止自体は上手く行っているのだが、カバはそもそもの耐久力が高いので、必然的に戦いは長引く。戦いが長引くということは、何のかんので命中精度の低い踏みつけも当たるということだ。 「やたらとタフだな。だが、逃す気は無い! でやぁぁぁぁ!」 全身を軋ませながら、疾風が可変式モーニングスター[響]を振るう。回復によって動けるものの、その怪我は決して浅くなく、彼以外の者が同じように攻撃を受けていたら、倒れていたところだ。 「ボクは勇者なので剣を振るうだけではないのです!」 自らを鼓舞するように勇者の方の光が叫ぶと、癒しの風が戦場に舞う。その風を受けて、ウサギの方の光が勢い良く躍り出る。 「馬鹿や阿呆でも構わない! 何よりも馬鹿にするだけの何もしないやつよりはな! ぼくの試みは馬鹿かもしれないがそれでも止めるぜ!」 彼女の行動を、愚かと呼ぶものはいるかも知れない。だが、その愚直とも言える一念はとうとう身を結んだ。正面から挑んで敵わず、重量を超える速さが得られず、それでも挑む姿を愚かと呼ぶのなら、愚かでないことにどれだけの価値があるというのか。 「今です」 黒いオーラを延ばしての攻撃を行っていた香夏子が声を上げる。 カバも次の攻撃を受ける前に姿勢を直そうとする。さすがの『血の汗』と言えども、状態異常を治せても、姿勢を直すことまでは出来ない。 だが、リベリスタ達もそれを黙って見逃すほど甘くない。 「逃がしゃしねぇよ。数秒だけでも稼げれば、後はみんなが何とかなるさ」 いつの間にか前にいた刹姫が、カバの隙を突いて、妨害の一撃を放つ。さすがにそんなものを受けながら、無理のある姿勢に一挙動で戻るなど無理がある。そこに再び雷が落ちる、いや雷を纏ったイーリスが切りかかる。 「カバとの激闘!勝ち抜くのです!! ふぁいなるいーりすまっしゃーーー!!!」 突撃の瞬間、カバの瞳に優しげな知性が浮かんだ、そんな気がした。 カバの瞳が「ありがとう」と告げた。そんな気がした。 ●ザ・ラスト・オブ・カバ(帰ったらうがいと手洗いを) 思わぬ激闘を制したリベリスタ達は、それぞれに腰を下ろしたり、武器を支えにしていたりして、疲れを癒す。戦術的な判断を行う相手ではなかったとは言え、誰も倒れていないのは運が良かったとしか言い様が無い。 「なんとか犠牲者を出さずに済みましたね」 さわやかな笑顔で疾風が、戦いの終わりを告げる。もっとも、一番怪我が大きいのが彼だ。むしろ、この怪我で笑顔を浮かべられるのは彼の強さだろう。 「そうですね~。それじゃあ、疾風さんの怪我も治しておきましょう。ラ~ラ~」 スキルで治せる範囲と判断した奏音が天使の如き歌を歌い、仲間の傷を癒していく。後列にいた彼女に怪我は無い。 「香夏子は疲れてしまいました」 香夏子も怪我を免れた部類に属するのだが、さすがの長期戦に疲れたようで、眠そうな目をしている。元からという説もあるが。 しかし、怪我をしている割に元気そうにしている人達も当然いる。 「あたいの初仕事も無事に終わったわけだし、そろそろ帰ってパーッとやろうぜ。こんな戦いの後で風邪引くのもそれこそ馬鹿馬鹿しいだろ?」 無事に仕事を終えた安堵感からか、愛嬌のある笑顔で刹姫がみんなを促す。 「自分が風邪をひいたことに気付かぬような者の事を馬鹿と言うのじゃ。ちなみにわしは風邪を引いたことは無い」 自信満々に迷子が頷いている。ひょっとしたら、ツッコミ待ちなのかも知れない。 同じように、勇者の方の光も嬉しそうにしている。 「流石ボク!! バカとは違うのですバカとは……!!」 カバに勝利したことで、気分も高揚しているのだろう。ここまで来てもなお、全力で自分が馬鹿でないことを主張している。 「かば!! おまえはっ! 強敵だったのです!」 そして、怪我をしながらも空に向かって叫んでいるのはイーリスだ。当然、強敵には「とも」とルビを振って読むのが正しい。ちなみに、彼女の怪我が全てギガクラッシュ(ルビ:いーりすまっしゃー)の反動であるのは内緒だ。 「ぼくはやっぱりカバは好きだぞ。敵じゃなかったらよかったのにな」 ウサギの方の光はちょっとしんみりした表情で呟くと、アーク職員に連絡を取って、帰還の支度を始める。 なんのかんので季節は11月。 戦いが終わった後の夜にうろついていると、風邪引いちゃうしね。 バカだったら大丈夫なのかもしれないけど、さ。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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