●依頼 アーク本部、ブリフィングルーム。 「今夜。一人のフェイトを持った男性が覚醒する。そして、それから間もなく……死ぬ」 急遽夜中に招集されたリベリスタたちを迎え入れ、万華システムを見終えたばかりの『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)はいつもと変わらない様子で、淡々と切り出す。 「急いで来てもらった依頼は、フェイスを持って間もなく覚醒する男性の保護と、それを殺そうとしてるフェイトを持てずに覚醒した少女の殲滅。現在の進行フェーズは2」 イブは一同の反応を確認し、間を置いてからゆっくりと説明に入った。 「場所は三高平港、第十三倉庫。現在は空となっていて、不用意に倉庫の中に人が訪れる心配はない。でも倉庫の外はその限りじゃないから」 暗に人が来ないからと言って、何でもやって良いというものではないのだと感じさせる注意を促す。 「少女は元は人間だけどフェイトを持たずにエリューションして、今はノーフェイス。残念だけど……」 殲滅以外の道はない。言葉に出さなくても、リベリスタたちは理解できていた。 姿形は普通の少女だが、その右腕が背中に触手を持つ巨大な獣へと変化するらしい。 獣の持つ鋭い爪や牙は出血を伴わせ、背中についた無数の触手と分厚い表皮で相手の攻撃を防ぐ。 厄介なのはこのノーフェイスの殲滅ではなく、今まさに殺されようとしている男性を庇いながら戦うことにあるだろう。 この男性は覚醒したばかりで混乱しているから、戦闘での頭数としては含まない方が良いとイブは付け加えた。 「時間がないので、急いで向かって」 ●承前 三高平港、第十三倉庫内。夜。 「……おいおい、何の冗談だよ。俺は夢でも見ちまってんのか?」 黒いジャケットを羽織った二十代の男性は、少女を前に溜息交じりで呟く。 男性の顔の彫りが深く整っていて、ハーフかクォーターのような容貌をしていた。 左眉の上辺りから出血を強いられ、視界が徐々にぼやけてきている。 先程少女に殴り飛ばされた際、できた傷だった。常人の力では、とてもそんな芸当はできはしない。 少女は一重で切れ長の目、和装が似合いそうな綺麗な顔立ち。とても荒事に向きそうにない可憐な容姿をしていた。 だがその右肩から先は、巨大で背中に触手を持つ四足の獣といった異様な形へと変貌していて、あり得ない状況を可能にさせている。 「あたしのこの力は誰にも止められない。あたしは……死神」 真紅の瞳を向けた少女と巨大な獣は、どちらともなく男性に死を告げた。 男性の名前は、明日真零(あすま・れい)。職業は私立探偵。 生まれ育った横浜で、この仕事を始めてから早数年。だが零はこの仕事があまり好きではなかった。 一言で探偵と言っても、小説に出てくるようなカッコいい仕事など滅多にやってこない。 依頼人は滅多に現れず、機械を使った盗聴器探索や、ひたすら張り込んで証拠写真を撮るだけの浮気調査がほとんど。 今までは裏社会の連中からの表沙汰に出来ない仕事で食い繋いで来たが、昨今の法改正もあってか連絡は途絶えて久しい。 家賃の滞納もとうとう半年間にまで及び、大家から自宅兼事務所を追い出される寸前にまで追い詰められていた。 そんな中やってきた救いの依頼が、いなくなった少女の捜索。 少女の名前は、霜月神楽(しもづき・かぐら)。17歳。 半年前から忽然と失踪していたところ、両親がダメ元で零の所へ依頼を持ち込んできた。 神楽は明るい性格で素行も良く、家庭環境も交友関係もまったく問題ない、ごく普通の女子高生。 周囲を調べても、家出をする理由がまったく見当たらなかった。 警察さえお手上げの状況だったので、調べ直したところで新情報など得られるはずもない。 そこで日頃の伝手を使い、裏社会の情報屋から神楽と似た少女の目撃情報を買い取り、はるばる三高平市まで調査に向かった。 だが探し当てた結論から言うと、今目の前にいるのは確かに神楽本人だが、中身はまったく『別のもの』に変わっていたのだ。 既に神楽に関わった何人かが、不可解な失踪を遂げていることも判っている。 ――ただその失踪の原因が、この獣によるものだとは、思いもしていなかったが……。 零の手には汚れ仕事で手に入れた、護身用のオートマチックが握られている。 だが実戦で使うのは、生まれて初めてだった。 既に獣に向けて数発撃ち込んでいて、残弾は残り一発しかない。 今まで発射した弾丸は、すべて背中の触手と獣の表皮に弾き飛ばされていた。 「こりゃ、詰んだかな……」 目前へと迫る死という運命を、すんなりと受け入れた零は、小さく薄笑いを浮かべる。 刹那、急にすべての動きがスローモーションになったように感じた。 しかし、自分の動きはその緩やかな時の流れの中でも、機敏に対応できることに気づく。 零は自分自身に微妙な変化を感じつつ、慎重に、しかし素早く狙いを定める。 そして、最後に残った弾丸を放った――。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:ADM | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年11月13日(日)23:34 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●救出 三高平港、第十三倉庫。人気の消えた夜に銃声が響く。 つい先程までの獲物には、あり得ない速度での一撃。 明日真零(あすま・れい)の放った弾丸は、それまで防いできた巨大な獣の持つ触手の反応よりも早く、その右目へと吸い込まれた。 追い詰められた獲物に予期せぬ反撃を受け、霜月神楽(しもづき・かぐら)の右腕――無数の触手を背に生やした獣の動きが僅かに止まる。 「……やってくれたわね」 獣の右目が手痛い反撃で赤く染まり、その傷の痛みで神楽に怒りと憎悪が満ち溢れてゆく。 「ただでは死なせない……嬲り抜いて殺してやる」 『運命を持たざるもの』はこの時、目の前の獲物が覚醒して『運命を持つもの』となったのに気づいていなかった。 ――時を同じく、倉庫に『運命を持つもの』たちが集っていたことにも。 「うぉぉぉぉぉぉぉっ!!」 突然の雄叫びと共に、『黒鋼』石黒鋼児(BNE002630)が二人へと突進してきた。 2メートルを超えた巨躯の持ち主である鋼児の突然の乱入に、神楽は小さく舌打ちして視線を向ける。 そこへ左から小銃を手に豊満な胸元を露出する『ミックス』ユウ・バスタード(BNE003137)と、右から二丁拳銃を携えた愛くるしい幼女『猟奇的な妹』結城・ハマリエル・虎美(BNE002216)が、それぞれ光弾と銃弾を放った。 「探偵さん、ですか。フィクサード時代の私なら、そう言う手合いを片付けたりする事もありましたが……今は良い者側、ですからね」 ユウは自分の過去でも思い出したのか、小さく笑った様にも見受けられる。 獣の背中の触手が二方向から飛んできた弾を防ぎ、神楽は新たに現れた三人を一瞥した。 「動くなっ!」 虎美は鋭い声で神楽へと警告を飛ばす。 神楽はそれを無視した――まずは自分を手傷を負わせた目の前の獲物の処理が先だ、とでも言いたげに。 しかし『さくらのゆめ』桜田京子(BNE003066)にとっては、先程の一瞥だけで充分な時間が稼げていた。 「極限状態での覚醒……。死への運命が分かっていたとしても、か」 京子は決意した表情で零と神楽の間に素早く割って入ることで遮蔽となり、同時に驚異的な集中で感覚を研ぎ澄していく。 「小賢しい!」 獲物の前に立ちはだかった京子に向け、神楽は苛立った声で獣の爪を振りかざす。 だがその一撃は、同じく二人へと割って入った精悍な男性――『戦闘狂』宵咲美散(BNE002324)によって未然に防がれた。 「明日真零だな? 如何やら運命は、お前さんを見放さなかったようだぞ?」 巨大なランスを翳して爪の直撃から免れ、零へ視線を向けることなく背にしたままで構え直す。 美散の声に続き『微睡みの眠り姫』氷雨・那雪(BNE000463)が、その場に座り込んでいた零を立ち上がらせる。 「無事、ね……? よかった……」 「おたく等……いったい?」 出血の痛みと状況の変化に頭が追い着いていない様子の零へと、落ち着かせるように眠たげな声が届く。 「私達……? 貴方と、同類……。混乱するかもしれないけれど……後で」 那雪の視線が巨大な獣を一瞥し、敵を屠るべく神経を獣へと集中させた。 「大丈夫だよ。僕達が貴方を守るからっ!」 背中の羽を広げてふわりと舞い降りた『七つ歌』桃谷七瀬(BNE003125)が、清らかなる癒しの微風を零に吹きかける。 「折角目覚めた同胞の命を、奪われるわけにはいかないね……」 彼らの後方に着いた『いつも元気な』ウェスティア・ウォルカニス(BNE000360)からの優しげな詠唱と重なり、零が負った傷を次々に癒す。 傷が癒えだす奇跡を体験し驚きを隠さない零へ、最後に辿りついた鋼児がカバーに入った。 それを確認した京子と那雪が後方の左右へと展開し、既に後方射撃を始めていたユウと虎美と共に包囲に回る。 「傷が癒えるって……。俺はもう、天国か地獄にでも迷い込んじまったのか?」 呆然としている零に対し、彼を庇うように前に立つ鋼児。 「何時までも呆けてんじゃねぇよ。これは夢でも幻でもねぇ、最高にクソッタレな現実だ」 ●対決 乱入してきた者たちの正体が判らないまま、神楽は焦りを感じつつ、前衛の美散と鋼児に獣の爪を浴びせた。 獣の素早い攻撃は特に、速さを不得手とした鋼児へと直撃し続ける。 だが鋼児に引き下がる気配はない、むしろ後方から次々と飛んでくる癒しの風により、その都度傷は癒されてしまう。 「霜月センパイよ、俺はあんたに同情なんてしねぇぜ。見た目が変わったって、中身まで変わらなきゃいけねぇなんてこたないんだ」 黒鋼に覆われた左腕を回し、次の一撃に備える。 隣の美散も神楽の先に常に着いて回り、神楽の攻撃を一心に引き受けている。 彼は既にランスでの攻撃を幾度か試みたが、今は攻撃を見合わせていた。 その度に背中の触手が反応し、絡め取る様に吸収されてしまう。 「死神である、このあたしの邪魔はさせない……」 「お前さんはまだ死神なんかじゃあ無いよ。衝動に抗えないだけだろう?」 神楽の苛立つ声に、美散は挑発にも似た煽る言動を取りつつ、仲間が作り出すであろう機会をジッと待ち続けている。 後方にいるウェスティアと七瀬からの回復支援があれば、前線をふたりで維持させ続けることは可能だった。 「必ず助けてみせるよ」 ウェスティアは途絶えることなく天使の歌を送り続け、零を含めた三人の傷を癒す。 「どうか、仲間に祝福の守りを――神護聖歌!!」 その傍らで、七瀬が広げた神聖結界は彼等に守りの力を分け与える。 一方、零たちから離れた京子は、神楽の退路を断つようにして逃走経路となり得る唯一の出入口近くを塞いでいた。 「……他の誰でも無い私が、この世界に生きている私が、助けたいから助ける」 決意のような呟きと共に、獣の触手を狙って精密射撃を繰り返す。 同じく後方からユウも獣の触手に狙いを絞り、光弾を放ち続けていた。 「無尽蔵に見えても相手の構成物質に限りがあれば……盾を剥がせるはず」 ユウの推測は、正鵠を射ていた。彼女たちの弛まぬ射撃によって、触手の数が徐々に減ってきているのを確認できたからだ。 「クールに決めるよっ」 一撃で触手を飛ばさずとも、その鋭い直観を駆使した虎美が脆くなった部分を狙い撃ち、確実に触手を減らしていく。 「うわ……うねうねしてる」 本体から弾き飛ばされた触手が、地面に落ちてぬたぬたと動き回る様に、嫌悪の表情を見せる虎美。 後方から次々に飛んでくる射撃で触手が削られ、神楽は焦りを募らせていた。 美散と鋼児を無視し、後方へと獣が跳びかかろうにも、二人に合わせて纏わり着く気糸が邪魔をしてきて、それもままならない。 「死神だなんて……随分と驕っているんじゃないか?」 眠りから覚醒したように口調がはっきりとした那雪が、気糸によって獣の行動を封じ込め続けていたからだ。 「……止めて証明してみせる、さ」 互いに攻撃の決め手にかけたまま、時間が経過していく。 戦闘開始の時点から触手を狙って射撃を続けていたユウ、虎美、京子によって、既に殆どの触手が消し去られていた。 獣と自身の傷は然程でないにしても、こう移動が封じられ続けては打開策の講じようがない。 やはり、先に目の前の美散と鋼児を先に全力で潰すしか――。 その時、前方にいた鋼児が獣の眼前に立ちはだかり、引き付けるようにガードを低く構える。 獣がやってきた獲物に咆哮し、その両腕の爪で鋼児を大きく切り裂いた。 だが鋼児はそれを真正面から喰らって尚、黒鋼の左腕でガッチリと獣の肩を抑え込んだ。 「俺は図体だけデカくて他はからっきしだからな……体張って人守る位しか能がねぇんだよ!」 その後方でウェスティアはより一層、天使の歌を高らかに。大きな傷を負った鋼児の傷を塞いでいく。 「もう誰も、私の前では逝かせはしない……!」 零の出血は二人がかりで治療を続けてきたこともあり、ほぼ全快に近い状態となっていた。 治療を終えたと判断した七瀬は、その手を獣へと向ける。 「僕が放つ矢は、穿つ。悪しき存在を根源から破壊する。聖性の光歌。―――閃光聖矢!!」 七瀬から放たれた魔力の矢によって、獣の前を守っていた触手が吹き飛ばされた。 他の攻撃によって、触手すべてが対応に追われた瞬間を美散は逃さなかった。 その時を待っていたかのように、全身の闘気を爆発させる。 「霜月神楽……。お前さんがまだ人である内に、人として殺してやるよ」 闘気を電撃へと変化させ、自身諸共巻き込む強烈な一撃を獣の表皮へと叩き込んだのだ。 零に撃たれていた右目の死角から回り込んだその一撃は、獣の厚い表皮を斬り裂き、その右肩から背中にかけて大きな裂傷を与えていく。 「なっ……ば、馬鹿な……」 神楽は苦痛に身体を圧し折り、大きく顔を歪ませた。 これまで自分の正体に気づいた人間は、悉く彼女の獣によって反撃する間もなく葬ってきている。 今回も乱入者さえ現れなければ、目の前で傷を癒しきった零もそうなるはずだった。 だが神楽は気づく。 自分が『運命を持たざるもの』であることが、零を含めた『運命を持つもの』たちを呼び寄せてしまったことを。 (このままでは、滅ぼされてしまう……逃げなくては……) 裂傷に顔を大きく歪ませながら、神楽は脱出の方法を探ろうとする。 だが考える暇もなく、立て続けに気糸が再び周囲を取り囲んだ。 「外さない……」 那雪は表情を変えずに、気糸を絡ませて動きを封じていく。 「超常の力による無法は好かないのですよね」 ユウが触手のガードが消えた獣の足へと、正確な射撃を続けて動きを止めさせる。 「逃してなんかあげないんだからっ!」 虎美の二丁拳銃が狙ったのは、獣と神楽自身を繋ぐ右肩の境目だった。 背中の触手を失ったことで防ぐ手立てを失い、右肩を吹き飛ばされていく神楽と獣が分断され、ふたつの存在へと別たれる。 「どう? ハンターから獲物に転落した気分は?」 その容貌に似つかわしくない残酷な口調で、虎美が神楽へと言い放つ。 「きゃああぁぁああぁぁぁぁぁぁぁっ!!」 「ぐおぉぉぉぉぉぉぉおぉおおおおっ!!」 焼ける様な感覚に身悶えつつ、神楽と獣は重なるようにして叫び声を挙げた。 獣は制御を失って狂ったように暴れ出し、本能として目の前の敵を屠ろうと必死でもがいている。 「逃がすかよっ!」 黒鋼の腕を獣から離して闇雲な爪による攻撃をかわした鋼児は、距離を取ってその右足を振り抜く。 蹴撃から放たれた真空の刃が獣を斬り裂き、大きくその巨体が揺らいだ。 後方にいたウェスティアはそれを見逃さず、立て続けに四色の魔光を放つ。 「……魔曲・四重奏!」 同時に、美散が全身のエネルギーをランスへと集約させ、冷徹に獣の眉間を貫く。 「安らかに、眠れ」 巨大な獣は光の乱舞とランスの一撃を浴び、数回の痙攣を見せた後、完全に沈黙した。 分断された神楽は自分の生存本能に従い、獣を見捨てた――自分が生き残りエリューションが進めば、また新たな力は手に入ると算段したからだ。 吹き飛ばされたことで那雪の気糸から逃れられた神楽は、千切れた右肩を抑えて逃走路を探す。 だが事前に察知した京子が先回りし、神楽の行く手を阻んでいた。 「み、見逃して……お願い……」 これまで覆ってきた死神としての優越感などすべて消え失せ、そこには形振り構わず命乞いする哀れな少女がひとり。 「ごめんね、神楽さんにも心配してくれる両親が居るのにね……」 京子は死に逝く運命にある神楽に、少しだけ同情したような声を投げかける。 僅かな希望の糸が垂らされたかのように、言葉に顔を上げた少女の目には、冷たい銃口が映し出されていた。 「ごめんね……」 止むことのない蜂の襲撃のような連続射撃の音だけが、倉庫内に響き渡る。 『運命を持たざるもの』の命運は、此処に潰えた。 ●誕生 「探偵さんも運が良かったのか悪かったのか……。ま、生き残れる目が出ただけでもマシなのかな」 肩をすくめて小さく呟いた虎美の向こうでは、改めて零たちが治療を受けていた。 「ちょっと痛いかもしれないけど、我慢してね」 戦闘が終結したのを確認して、七瀬は零の傷を包帯できつく縛って止血する。 七瀬は同時に、ウェスティアと鋼児や美散の治療にも追われていた。 特に鋼児は獣の攻撃を真正面から受け続け、出血と怪我で立っているのもやっとの状態だったからだ。 「これで少しの間休めば、じきにまた元通り動けるようになるから」 「悪ぃ、助かった……」 ウェスティアの言葉に、鋼児は安堵した声を返す。 「ん、怪我……大丈夫?」 口調がまたぼんやりとしたものに戻った那雪が様子を見て、優しく頷いて鋼児の頭を撫で撫でし始めた。 「よく、耐えたわ、ね……」 「んなっ……!」 見た目とは裏腹に純粋な心の持ち主である鋼児は、那雪の行動に思わず顔を紅潮させて抵抗する。 「……で、同類って言ってたけど。おたく等は何者で、俺は一体どうなったんだ?」 零は一呼吸を置いてから、立ち上がって先程まで自分を殺そうとした霜月神楽だったものを見つめた。 もう動くことはない獣の姿を見て、今までのことが現実なのだと改めて実感したようでもある。 リベリスタたちが簡単に自己紹介を済ませると、美散は治療の傍ら零がフェイトを持って覚醒したことを簡潔に説明した。 「――以上だ。何か質問はあるか?」 「なるほど……つっても、まだ何が何だがよく判らんし、質問も何も……」 「もしよければアークに来ませんか? 少なくとも人が困る様な汚れ仕事をする必要は無くなりますよ?」 美散の説明に首を傾げる零に、京子がそっと合いの手を入れる。 ここで時間をかけて説明するより、本部に戻ってゆっくり話をした方が零の理解も確実だとも思えた。 「そうそう。リベリスタってそう悪くない就職先ですよ? 特に私達の所は。少なくとも、家賃を気にしない生活を送れますから」 「……な、なんか俺のこと。何もかも知ってて言ってるような感じだな……」 ユウの言葉に、零は頭を掻いて思いっきり苦笑いを浮かべる。 「……わかった。その本部とやらに連れてってくれ。俺自身に何が起こったのか、霜月神楽がどうしてこうなったか、ちゃんと知る必要がある」 少し考えてから頷いた零に、那雪はぼんやりとした表情で近づいてきた。 振り向いた零の頭を突然撫で、ゆったりとした口調で告げる。 「まずは……おめでとう……そして、ようこそ。此方の世界へ……」 『運命を持つもの』がまたひとり、此処に誕生した。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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