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フィクサード尋問

●理由
「……それで、首尾は?」
『研究開発室長』(nBNE000501)真白 智親の問いに『戦略司令室長』(BNE000500)時村 沙織は小さく首を横に振った。
 名の売れたフィクサードである『相模の蝮』こと――蝮原 咬兵が大規模なフィクサード事件を起こしたのは暫く前の出来事である。
 ほとんど前触れ無く起きたフィクサードによる同時多発攻撃はその規模や敵の実力から考えれば小さ過ぎる被害をもって終結した。無論、そうなった理由にはまず第一にアークのカレイド・システムとリベリスタ達による実に効果的な対処が挙げられるのだが、それを踏まえても件の事件におけるフィクサード達の動き方は奇妙なモノであると言えた。
 そこでアークは捕らえる事に成功したフィクサード九条 徹以下数名のフィクサードから情報を獲得するべくその尋問を決定したのだが……
「まぁ、予想通りかな。『誰かを顎で使って正義を実行した気になってる奴に話す事はねぇ』そうだ」
 肩を竦める沙織に智親は苦笑いを浮かべて応えた。
「分かり合うのは難しいってな」
「まぁね。ましてや彼はフィクサード、俺達は唯の人間。土俵が随分と違うからね」
 そう言う沙織は尋問の失敗にも余り気にした様子は無かった。
「紳士的な尋問で済ませたのかよ」
「一応『正義の味方』としてはあんまり派手な事も出来ないだろ?」
 からかうように言った智親に沙織は「したくない」ではなく「出来ない」と言った。
 唯尋ねて答えるとは最初から思っていなかったと言わんばかりの口振りである。
 状況から言って情報を得られる可能性が高くなかったのは事実である。そんな単純な事実を聡明な彼が読み違える筈も無いのだが。
「余裕だなぁ、お前は」
「そう見えるか?」
「見える。まだ手を考えてんだろ?」
 智親に問いに沙織は少し人の悪い顔をして笑った。
「勿論。九条――だっけ。アイツの性格は何となく分かったからね。
 そりゃあ、俺が訊いても無駄だろうよ。ああいう人種がシンパシーを覚えるのはやっぱり同類さ。
 戦いが終わればノーサイド。強敵と書いてともと読む。元々口先の交渉なんて必要ないタイプだろ?」
「成る程、一つの見解としては納得がいくな。……ははあ、ちょっと読めてきたぞ」
 智親は顎の無精ひげを撫でるようにしながら目を細めた。
 この男も頭の回転は悪くない。付き合いの長さもあって、沙織が勿体をつけた時、どんな事を考えているかは予想がつく――
 沙織はそんな智親に反応に満足したように頷いて、答えを言われる前に自ら言葉を切り出した。
「そう。そういう事。居るだろ、アークには。九条が負けを認めるような、共感を覚えるような。
『実際に現場に出て正義を実行した』口だけじゃない連中が山程。だからね、俺はあいつらに任せてみようって思うのよ。まぁ、上手く行くかどうかは――分からないけどね」

●フィクサード尋問
「私はアーク所属、ヴァルテッラだ。相対する者として、まずは挨拶をしよう」
「こりゃ丁寧にどうも」
 紳士然としたヴァルテッラ・ドニ・ヴォルテール(BNE001139)は九条徹の目にどう映ったか。
 かくして九条の尋問はリベリスタ達の手に委ねられる事となった。
 一定の注意を言い含められた彼等はアーク司令部の委任を受け、尋問の担当を交代したのである。
「自分は尋問することなどないが、立会いはさせて貰おう」
「はい。普通のメイドのモニカです。記録の方は万全に行なっておきますのでご心配なく」
 取調室の代わりとなった部屋の片隅でウラジミール・ヴォロシロフ(BNE000680)が言い、モニカ・アウステルハム・大御堂(BNE001150)が端末を叩く。
 ウラミジールは雑多な集まりになるこの尋問に問題が起きる事を嫌い、モニカは情報の整理を買って出た……という所。
「ふふ♪ ステキなおにさんアルねぇ。お口が素直じゃねーならカラダに聞きましょか♪」
「よう、九条。なんでも話してみるもんさ、きっといい気持ちだぜ。体は正直だぜ?」
 ……李・灰蝠(BNE001880)や阿部・高和(BNE002103)といった顔を見ればウラミジール他何人かの気遣いは正解だったのかも知れない。
 特に後者。名が余りに体を現しすぎていて見た瞬間ちょっと噴いた。
 閑話休題。やはりと言うべきか先の事件に興味を持つリベリスタ達は多く、九条達フィクサードの尋問には次々とリベリスタ達が顔を見せていた。
「金銭の流れが気になります。
 これだけ多数のフィクサードを一時期に動かしたお金は一体どこから出ているのでしょう?」
「アンタ達と一緒だろ。非合法な人間が群れれば金なんて何処からでも出てくるモンさ」
 鈴懸 躑躅子(BNE000133)の問いに九条は笑う。
「万華鏡について……何処まで知っている? 組織にフォーチュナが居たようだが、どこから来た?」
「俺はそれがどんなモンだか知りゃしねぇよ。フォーチュナが何処から来たって……愚問だろ。
 そっちと同じようにこっちの組織もフォーチュナの一人や二人居るに決まってる。あれだけの規模で動いてんだから別に不思議は無いだろ?」
 オーウェン・ロザイク(BNE000638)が尋ねると、今度は軽く応えてみせる。
「あーえーと、捕獲されて尋問されるのも計画の一部だったりするの?」
「そんなの趣味じゃねぇよ」
 兎登 都斗(BNE001673)にはにべもない。
「あれは――私達と戦う事で何かしらの目的が達成されたという事なのか?」
「さぁな。……その辺りはある程度の仮説があるんじゃねぇのか?」
 天音・ルナ・クォーツ(BNE002212)の問いと、
「お前らのボスと黒幕は誰ダ! ちゃんと話さないと殴るゾ!」
「殴りたきゃ殴れよ。そこのおっさんが止めそうじゃねぇか?」
 直情径行なるホワン・リン(BNE001978)ははぐらかす。
「そうだ。女性構成員のプロフィールとスリーサイズを教えろ。
 地位が高い女性が好みだ。高圧的な女性に罵られたい。全てを包み込んでくれる女性もよいな」
 リスキー・ブラウン(BNE000746)は置いといて。
「貴方は正面からの戦い負けました。彼等に義理があるのは分かりますが……でも、負けた者としての義務もあると思います」
「敗者は勝者の質問に答える――それが筋ってもんだろ?」
「ああ。生かして貰ってる恩もあるにゃあるしな。だが答えられない質問については別だ」
 ヴィアラッテア・フェイ・ガベル(BNE002017)、鷹司・魁斗(BNE001460)の言葉に九条は頷く。
 果たして沙織の考えた通り、実際に矛を交え敗れたリベリスタ達に対して九条はある程度『敗者のルール』に従った受け答えを行なっているようだった。リベリスタ側も潔く覚悟を決めた九条にある程度の好感を持った者が多かったのか、
「菊の用意は出来なかったけど。雨を肴にってのも悪くないとおもわない?」
 彼の手元には紅涙・りりす(BNE001018)をはじめとした面々から酒やら菓子やら何やらと捕虜の身には些か過ぎた差し入れの類が数揃えられていた。甘いとは言えばそれまでだがそんなリベリスタ達の素人臭さに豪放な九条はかえって気を良くしたようでもある。
 ……依々子・ツア・ミューレン(BNE002094)が持ち込んだ机上の九条ねぎは見事な異彩を放っていたが。
「お腹減ってない? 飴ちゃん食べるー?」
 氷夜 天(BNE002472)が言い、
「はくならこれを食べさせてあげやう」
 郷愁を誘う『かあさん』を思わせるBGMを流し、カツ丼を示した天月・光(BNE000490)は刑事ごっこの気分である。
「悪いな、お嬢ちゃん。魅力的な提案だが、そうはいかねぇよ」
 ……口元を歪めた九条が積極的に『吐く』のは自身の事と当たり障りが無い内容までが主である。
「行動予定と組を操ってる『上』の事を知ってる範囲で話して。
 答えなくてもいいよ、我々としたら順に叩き潰していけば済むんだしね。
 末端、上役、必要なら其の家族まで……仕方ない、世界の為だ」
「ああ、いいぜ。やれるもんならやってみろ。それ位の方が俄然面白ぇぞ。正義の味方」
 ハッタリで凄んだ富永・喜平(BNE000939)も九条は飄々と受け流す。
 元々腹が据わった男な上、線を引いているらしく扱いは中々難しい。
「一連の騒動は、誰に依頼された仕事かぇ?」
「偉いさんだ」
 宵咲 瑠琵(BNE000129)は頷く。聞く限りでは蝮原が仲間を当て馬に使うとは思えない。
「アークに所属する一部の方々を知っているようでしたね。
 どこかぼんやりした情報でしたがどういう形で知らされていたのでしょうか?」
「派手に暴れてりゃ名前も売れるぜ。
 こっちにもフォーチュナは居るし……それでもなくてもお前目立つ格好してるだろ。歪ぐるぐ」
 歪 ぐるぐ(BNE000001)はぽんと手を打つ。
「んー……どうもしっくり来ないの。
 強盗するっていうから慌てたのに貴方が望んだのは、シンプルな真っ向勝負。
 不本意じゃなかった? 任務とはいえ。そこまでして、わたし達を呼ぶ必要があったの?」
「前の事件の時はどこかフェアっていうか……悪になりきれていない部分があった。多く、あったみたい。
 ね、あなたたちは本当にリベリスタの敵なの?」
「したい事だけ出来る人生は楽しいだろうな。
 呼ぶ必要があったかないかと言われりゃあったからこうなったんだろ。
 敵が云々も意味ねぇ問いだ。負けたからここに居る以上、俺はお前達の敵だったろうよ」
 桜田 国子(BNE002102)、綿雪・スピカ(BNE001104)に答え、
「え、ええとね……そっちの目的ってな、何かな?
 アークの根絶やし……? で、でも、それは費用対効果が滅茶苦茶だ。
 警察を滅ぼそうとする暴力団なんか無いよ。不合理だ」
「違いねぇ」
 臼間井 美月(BNE001362)の言葉に九条は笑う。
「単刀直入に訊きます。あなたたちはこのままアークを放置していたらどうなると思っていますか?」
「毒虫は幼虫の内に潰しておくもんだろ?」
「アークを本格的に相手取った理由はそれでしょうか。
 既に気軽に喧嘩を売れる規模ではない筈。社会的な柵もあります。
 どう考えても割に合わない。言い換えれば、蝮の御仁は貧乏籤にも程がある。彼が甘んじた理由は?」
 犬束・うさぎ(BNE000189)の言葉を九条は否定した。
「だからこそ、だろ」
「と、言うと」
「僅か数ヶ月で力をつけたアークを長い間放っておけばどうなるかは目に見えてる。
 日本がどれだけのフィクサードを抱えてると思ってる。どれだけの『市場』だと思ってる。
『オルクス・パラスト』の足りない兵隊じゃどうにも出来なかった兵隊が、暴れたいヤツがどれだけ居ると思ってる。気軽に喧嘩を売れるレベルじゃないって言ったな? 気軽に喧嘩を売れるレベルじゃあねぇが、勝てねぇ相手でもねぇんだよ。
 それに……蝮が蝮として喧嘩を売った訳でもない。余計なのがゴロゴロ居ただろ」
 やや獰猛な表情を見せた九条にうさぎは「成る程」と頷いた。ルーキーと呼ぶべきリベリスタに侮られて少しむっとしたのかも知れない。九条の今の言葉は本人が意識しているのか、いないのかは分からないが――ある程度の情報を含んでいる。
「喧嘩がお望みならば正面からお越しください。殺戮がお望みならばご自由に」
「……ああ、畜生。それを言われると弱いぜ」
 一条・永(BNE000821)の言葉は辛辣だ。
「この悪ふざけの発案者は誰だ? 蝮じゃないだろう?
 そいつを俺達に絞めさせた方が、寧ろ蝮の為じゃないのか?」
「別にマムシの為だけに動いてる訳じゃねぇ」
 冷静さを取り戻したのか出田 与作(BNE001111)の言葉は一蹴。
「“美術館”の強奪って何が目的だったのかな? やっぱりアークの能力調査?」
「そちら側にやる気があまり感じられなかったの。偵察だからは組織の理屈よね」
 門真 螢衣(BNE001036)に答えた九条は、龍伝・あいら(BNE001481)、イーゼリット・イシュター(BNE001996)の言葉に肩を竦める。
「こっちの行動力を試しとったようにも思うんやけど……それにしては数多すぎやない?
 それに、なんか行動もバラッバラやしなぁ……」
「あなたたちは、いったいどれだけの大きさの組織だと言うんです?
 こんな人数、一度に、しかも様子見の様に……」
「どうしてこんなに性急な策を取ったの?
 こんな西瓜を叩いてみて音を聞くような真似をしなくても、
 その結果戦力をすり減らすようなことをしなくても、やり方は色々あったでしょうに」
「たった二百かそこらの兵隊だろ? アンタこの街に何人のリベリスタが居るか数えた事があるのか?
 わざわざ喧嘩を売るフィクサードが新興のお前達に見劣りすると思ってんのか? あの程度で多いだの考えるようじゃ幾らなんでも考えが甘いぜ。
 それに実際の所何人倒したかは知らないが、そんなに倒し切れるほど甘い相手ばかりじゃなかっただろ」
 九条は依代 椿(BNE000728)、中村 夢乃(BNE001189)、本条 沙由理(BNE000078)の言葉を鼻で笑う。
「お前達だってまだ全力じゃないだろう? あの程度の兵隊じゃ、三高平は落ちねぇしな」
「リベリスタが邪魔っぽいのはわかるんだけど、一気に潰さなかったのは何で?」
「被害を出すのが嫌なのはお前達も俺達も同じだ。
 アークの組織力を考えれば一度で決まる話じゃないのは当然だろ」
 東雲 聖(BNE000826)が問いには明瞭な答えが戻ってきた。
 確かに大規模な蜂起にも即応を見せたアークは敵からしても侮れるものではないという事なのだろう。
 アークの存在を知りながら事を起こしたのは明白なのだから、最初から被害を嫌ったと考えれば頷ける部分である。
「蝮の所属している組織の規模、一般人に対する方針。雇われフィクサードとの接触方法は?」
「マムシ自体はともかくそれ以外が人道的とは聞かねぇな。その他は俺の知る事じゃねぇ」
「フィクサード如きに聞くのは大変癪ですが、先日の東京の無差別殺人事件。あれは貴方の組織の上と関係がありますか?」
「知らねぇな」
「あたし、知りたいことがあるのよね。
 ……貴方達の仲間に、あたしの知らないスキルを使う子がいるっていうじゃない。……それ、詳しく教えてくれなぁい?」
「生業次第で扱う術も異なるのさ。
 お前達が知らない技はこの世界に沢山あるだろ。勿論、俺が知らない技もあるが」
 秋月・瞳(BNE001876)、夜刀神 真弓(BNE002064)、花城 知恵(BNE000492)の問いに九条はそれぞれ応えた。
「一連の事件目的は共有されていますが、人員の横のつながりは薄いと考えて良いのでしょうか?」
「俺はマムシに頼まれたから動いただけだ」
「九条。あんたみてーに気持ちの良い喧嘩できそうな奴。蝮の他にあと何人来る?」
「あなた方は総勢で幾人ほどの組織なのですか?」
「その、規模を訊いても?」
「第一、今回はバラバラなんだ。テメェの周辺しか知らねぇよ。
 血の気の多いのはそれなりの数居るだろうけどな」
 今尾 依季瑠(BNE002391)、宮部乃宮 火車(BNE001845)、銀咲 嶺(BNE002104)、夕立・梟(BNE002116)にそれぞれ九条が応えた。
「バラバラ?」
 問い返す嶺に九条は「口が滑った」と苦笑いを浮かべたが、何かを考え直したらしくこれにも答える。
「バラバラだ。さっきも言われたがな、そういう事だ。
 組織が幾つも集まって動いてるのさ。日本の結社の有名所がな。
 だから横のつながりは薄い。たとえ俺を拷問したって出てくる情報なんてたかが知れてるのさ」
「蝮とかいう奴は他の組織のフィクサードとも繋がりがあったりすんのか?」
「というよりヤツ自身は別にそう組織的じゃあない」
 鯨塚 モヨタ(BNE000872)の言葉を九条は肯定。これでうさぎが引き出した情報の断片が一つの形に完成した。
「フィクサードも………世界的に……組織が……連携しているの?」
「我が強いからな。俺達は。少なくとも今回は日本国内だが、これでも十分珍しいだろ」
 エリス・トワイニング(BNE002382)の問いに九条は頷く。
「俺の相手なんだが、考えの浅い少女が隊長なんてやってた……あの人選はそういう理由か」
「同僚の敵は一般人に危害を加えないようにしていたって話だけど、私の相手は一般人の安否なんて全く考えてなかったのは……そういう事か」
 小鳥遊 京(BNE000880)、雪城 紗夜(BNE001622)が納得したように頷いた。
 九条が他のチームの事を良く知らないのと同じように、他のチームも九条の事を良く知っている訳ではないのだろう。蝮原は全体を把握しているだろうが、話を聞く限りチームを寄せ集めた風であるフィクサード達は主義・信条が異なるのかも知れない。
 事件の報告書毎の差異を考えるに蝮原に比較的忠実なものとそうでないものが居るのは明白である。
「いちいち集まってか……要するにデカい事をやらかすためか……
 御眼鏡に叶ったら万華鏡をブン取るためだろ!」
「かもな。上の考えは知らねぇよ」
 斜堂・影継(BNE000955)の言葉にも九条は動じない。
 幾つかの回答と先の事件の状況を照らし合わせれば見えてきた事実があるのは確かだった。
 フィクサード側のカレイド・システムへの興味と余りやる気の無い戦い振り、九条自身の言葉も然り。推測を推測より先へと進めるそれ。
「いわゆる上の者が声をかけた時どれほどの数が動くのか……
 フィクサードが全部繋がってるわけじゃないって言うけど……
 いざまとまるといかほどのものかは……気になるねぇ?」
「如何に大口の顧客だろうと、一口ではこの先生き残れないと思うのよね。
 いい組織があったら紹介して欲しい位だわ」
 幼い美貌に似合わず立花・花子(BNE002215)が口元を歪め、エナーシア・ガトリング(BNE000422)は皮肉に嘯いた。
 どうあれ、これが終わりでは無く始まりなのは――
(あ奴は、事件はそこから始まると、そう言っておった。確かに)
 ――直接あの蝮原と対峙したアルカナ・ネーティア(BNE001393)にとっては確信出来る事実であった。
「関東仁蝮組はどこまで組として関わってるの?」
「次は本気でくるんだな。どんな奴が出てくるか? どれほどの戦力で来るのか? 聞かせてもらうぜ」
「知らねぇな」
 来栖・小夜香(BNE000038)、ジョン・リンクス(BNE002128)に九条は頑と譲らない。
(今回の波状作戦は、万華鏡の精度確認で正解か……)
 尋問の様子を眺めながら酒呑 雷慈慟(BNE002371)は内心で呟いた。その仮説を持つのは彼だけではなく朱鷺島・雷音(BNE000003)、仁科 孝平(BNE000933)、空音・ボカロアッシュ・ツンデレンコ(BNE002067)といった面々も同じくである。元より考えられ得る可能性はそう多くは無い局面であった。材料が揃う程に仮説は補強される。
(今回の騒動、彼らがアークを利用しようとしている――その可能性は?)
 千早 那美(BNE002169)は複雑な顔をして思案した。
 答えは見えない。今、新たな推論を決定付ける事実は――何処にも存在しないのだが。
「私が知りたいのは逃がした『砂潜りの蛇』の事。あいつはどういう奴なの?」
「胸クソ悪いクソ野郎だ。お前が逃がしたって聞いて今日一番がっかりしたぜ」
 結城・ハマリエル・虎美(BNE002216)の言葉に九条は嫌悪感を隠さなかった。
「マムシの名誉の為に言っとくが、少なくともアイツは俺達の仲間じゃねぇよ。
 ……望む望まないじゃねぇよ。結果的に押し付けられただけでな」
「山楝蛇一家は?」
「……ま、あの嬢ちゃんが顔出すのは道理だな」
 こちらの名前には対照的な反応である。
「一部の例外はありますが……今回の事件、一般人を狙いつつもその実被害が出ない前提であるような報告も多数見受けられました。
 万華鏡の精度を測るのが目的ならば人死にを出すなという指示は不要なはず。そこにどんな意図があったのかを知りたいです」
「マムシのやり方だ。アイツは甘ぇからな。『出来るだけ』そういうのをなくしたいんだろ。……まぁ、俺もか」
 カルナ・ラレンティーナ(BNE000562)の言葉に自嘲するように九条は言った。
「咬兵ちゃんは本気で人を愛した事があるかどうか、気になるわ」
 本気で人を愛した事がある人間に悪人は居ない――マリアム・アリー・ウルジュワーン(BNE000735)の信念は目前の悪を疑っている。
「蝮との出会いを聞きたい。個人的興味だが、良ければ聞かせてくれないだろうか?」
「……ま、事件は事件としてだ。俺はマムシにも……アンタにも興味がある。その人生そのものにな」
「酔狂だな。聞いても面白くねぇぞ」
「それでも、だ」
 不動峰 杏樹(BNE000062)、司馬 鷲祐(BNE000288)の言葉に九条は不思議そうな顔をした。
「九条のおじさま、私、あなたと美術品を巡って戦ったのよ。覚えてる?
 ……おじさまのような筋の通った人が心酔するくらいだもの。
 蝮さんはきっと素敵な方なんでしょうね。ねぇ。おじさまは蝮さんと、どんな関係なの?」
「……ああ、お嬢ちゃんか。そう言って貰えりゃ嬉しいが負けちゃ格好はつかねぇな」
 アリステア・ショーゼット(BNE000313)に罰が悪そうに九条。
「アイツはダチだ。腐れ縁でダチで恩もある。簡単に言うには少しばかり難しいがな」
「……一つ答えて。罪なき世界に叛逆して、こんな風に捕まって。これが貴方の信じた道なの?」
 他の面々とはほとんど正反対の感情を秘めてはいたが、奇しくもミュゼーヌ・三条寺(BNE000589)の問いは彼と同じく九条自身を向いていた。
「日陰者にも日陰者のルールがあるだろ。義理を捨てたら何の為の任侠だ」
「……っ……!」
 唇を噛む彼女は咄嗟に得物を抜きかけた自身の制止に全力を尽くさずにはいられなかった。
(……犯罪に手を染めておいて、義理だの何だの……!)
 或いはそんなものの為に『私が――誰かが奪われた』と云うならば、考えた彼女は辛うじて激情を抑え込み長い睫をそっと伏せる。
 そんな彼女をもしかしたら察し、慮ったのかも知れない。
「ミスタ九条。何故今回ミスタ相模は己の信念を曲げたのデス。
 これだけのフィクサードを動員すれば暴走する奴が出るのは彼なら分かるでショウ。
 それなのに何故強行したのカ。彼程の男ガ。それがミー最大の疑問ナノデース」
「蝮原……直接見てきたけれど、強かったよぅ。
 目的はなんとなく分かったケド、あのヒトの理由やその先にあるモノが分からない……」
「……」
 ウルフ・フォン・ハスラー(BNE001877)の問いとアナスタシア・カシミィル(BNE000102)の言葉に九条はこれまでで一番微妙な顔をした。
 この男、見るからに嘘が上手くない。少なからず思っている事が顔に出るタイプなのは間違いが無い。
「ね、蝮ってどんな人? あたしは、蝮の人となりが知りたい。
 いい所や悪い所……主観で全然構わないからさ。好きな面や嫌いな面とか」
「……ふむ。君は長い付き合いなのかい? それとも蝮原さんにそんな親しい相手はいないのかな」
 レイチェル・ウィン・スノウフィールド(BNE002411)とツヴァイフロント・V・シュリーフェン(BNE000883)の問いに九条は「馬鹿なヤツだ」、「世話になったヤツは幾らでも居る」とだけ応える。
「今回の襲撃で、全く関係無い人を楽しんで殺してるフィクサードが沢山いたけど。
 貴方はそのことについてどう思うの? 自分の見てない所だから、気にならない?」
「流儀と仕事は別問題だ。それはリベリスタでも同じ話じゃねぇか?
 例えば泣き喚いて命乞いをする子供のエリューションをお前は見逃すのか?」
 アンナ・クロストン(BNE001816)は苦笑する。「いいわ、気になっただけだから」。
「船の事件で蝮さんに会ったけど。見逃してもらっちゃった。でも、浮かない顔してたよ」
 間宵火・香雅李(BNE002096)が言う。
「蝮って何か弱み握られてて言いなりになって動いてるんですか? 今回動いたフィクサード達も同様に?」
「知らねぇ」
 九条はマーシャ・ヘールズ(BNE000817)の言葉を否定する。自分は違うと。
「何やろな、ウチらに情報与える事で蝮さんが動きやすくなるとか無いんかな?」
「矜持があるのなら、それを教えて欲しいよっ! お互いが望まない状態なら……もしかしたら」
 可能性を探る関 喜琳(BNE000619)、神楽坂・斬乃(BNE000072)の言葉は半ば程は願望に近かった。
 戦わないで済む相手ならば戦いたくはない。分かり合える相手ならばそうなる事が最良だ。
 これもフィクサードに言わせれば甘い考えなのかも知れないが、偽らざる本音は少なからずそこを向く。
「貴方は。いえ、貴方のみならず、蝮原さん含め。貴方達は何故フィクサードなのでありますか?」
 ラインハルト・フォン・クリストフ(BNE001635)の純粋なる問いは純粋が故に穢れなく、そして無為だった。
 言うまでも無く敵と定めたこの相手は何より自身に近しい、謂わば――意見異なるだけの同胞なのだ。
「貴方は、蝮原氏に何と言われて勧誘を受けましたか?」
「力を貸せ、と」
「……成る程。確かにその通りだ」
 二人の間の事情には本当に難しいモノが無かった――『読み取った』イスカリオテ・ディ・カリオストロ(BNE001224)は頷いた。
「仁義に障る事は無い。貴方は無理矢理情報を盗まれた。それで良い」
 九条は凛と動じない。特に考えないようにしているのだろう。余計な事を。知られるべきではない事を。神秘の力を知るが故に。
「しかし、人を傷つけない半端な仁義には助かりました。
 強い者が言うから、蝮原様も、貴方も従う。任侠の世界も、そんな府抜けが罷り通るのですか?」
「そういえばそうね。それって全然格好良くないわ。例えるならそれって長崎辺りの暴走族」
 讀鳴・凛麗(BNE002155)、源兵島 こじり(BNE000630)が九条を挑発する。
「お前等に事情を察してくれとはハナから言わねぇよ」
「……マムシの、どんな所に魅せられたの?」
「語るに落ちるって知ってるか、お嬢ちゃん」
 こじりは「ああ、そう言えばそう」と納得する。
「蝮は誰かの意図で不本意な作戦を指揮していたように御見受け致しております
 上の『計画通り』に事が進むとして、貴方方はそれで良いのでしょうかね?」
「お前達の思う通りになるよりはな」
 鬼ヶ島 正道(BNE000681)への言葉はにべもない。
「蝮原さんが何故今回の作戦を引き受けられたのか、もし知っていたら教えていただけますか?」
「他所を当たれよ。マムシの事情なんてもんがあったとして……
 当人でもねぇのにペラペラ喋る程、俺の舌は安くねぇ」
 内薙・智夫(BNE001581)に代わり、ならばとゲルト・フォン・ハルトマン(BNE001883)。
「お前たちも一般人を巻き込むのは本意ではないと見える。
 話せる範囲で構わない。お前らの組織の次の手を教えて欲しい」
 問いは真剣味を帯びていた。相手を選ばない無理な問いでも訴えかけるだけの切実さを持っていた。
「九条さんは仁義を重んじる人だとお見受けしたです。
 簡単に情報を漏らすとは思いませんけど……」
 けど。けどの後に続く言わない言葉に悠木 そあら(BNE000020)の気遣いが篭っていた。
「僕には守りたいものがあるんだ。
 貴方や蝮原さんだって守りたいものはあるはずだ。ひょっとしたらそれを……」
「馬鹿な事、聞くんじゃねぇよ」
 遮った。
 設楽 悠里(BNE001610)の言葉を途中で遮った九条はこれまでで最も深い苦笑いを浮かべた。
「知ってても言うか。だがな、免じて答えてやる。俺は知らねぇよ。多分、マムシの奴もだ」
 その言葉が意味する所は存外に深い。九条は暗に言っているのだ。暗に伝えているのだ。
 相模の蝮は事件自体を望まず――それを望む誰かは別に居ると。霧中の事件においてそれは確かな確認となった。
「アンタやアンタの大将は何を至上目的としてんだ? 行動理念はどこにある」
「フィクサードが暴れるのに本来理由はいらねぇよ」
 鳳 天斗(BNE000789)はこの答えに苦笑した。
「どうしてあなた方は、フィクサードになったのか。なってしまったのか……」
「さぁ、な……」
 蘇芳 縁(BNE001942)に答える九条の声には色濃い疲れが滲んでいた。
「……どうやら、そちらはただの殺戮や、事件を起こすだけのフィクサードでは無い様だ。
 もしもこの先事が上手く進んだのなら。俺達は……何かで協力等する事は可能になるか?」.
 新城・拓真(BNE000644)の真っ直ぐな視線は九条の瞳の奥を覗き込むようだった。
「蝮原という方の……その仁義は。一体誰に通す仁義なのだろうか?」
 ハイデ・黒江・ハイト(BNE000471)の言葉が宙に踊る。
 揺れる。揺れる。嘘を吐けない男の瞳が揺れた。
 大仰に息を吐き出す。気付いて天井に視線をやった彼は目を閉じ唯「知らねぇよ」と繰り返した言葉だけを吐き出していた……



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