http://bne.chocolop.net/img/top_bg/BNE_bg_20150317ex.JPG
<白騎士、黒騎士>
ディーテリヒの望んだ最後の審判を前に二人の騎士が佇んでいた。
主人は最後の最後までその真意を二人には告げなかった。
恐らくは止められる事を分かっていたからであろう。
アルベール・ベルレアンは理解し得ても、セシリー・バウスフィールドは不可能である。孤児だった自らをその手で拾い上げ、養育し、現在の彼女のアイデンティティを築き上げた――ディーテリヒは間違いなく彼女の信仰対象だったからだ。
「……セシリー」
荒事の気配を増す現場を遠く見詰めるセシリーに兄のようなアルベールが声を掛けた。
受けた喪失感は等しい。しかし、アルベールには諦念があり、セシリーには無い筈だった。
歯を食いしばり、拳を握ったセシリーの手元からポタポタと血液が零れ落ちている。
「……どうする」
アルベールは他に何を言う事も出来ず、彼女に訊いた。
その言葉はある意味で彼女の肯定だった。「どうするにせよ、付き合ってやる」という宣言に他ならない。
「知れた事」
氷のような眼差しでセシリーは言った。
「あの、魔女を殺す」
「ディーテリヒ様が望んだ事だとしても、か」
「ああ」
セシリーは迷わなかった。
「それに、ディーテリヒ様が望んだのは『最後の審判の発動』までだ。
その結果――魔女が勝つ事は特段望まれていなかった筈だから」
白刃が赤い光を跳ね返す。
アルベールを振り返ったセシリーの目は大粒の涙に濡れていた。
「あの方を、唯――心から愛していた。それだけだった」
|