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<クレムリン地下大迷宮>
「……遂に来ましたか」
クレムリン地下・大迷宮最深部。
儀式の準備が整った祭祀場にて、グレゴリー・ラスプーチンは嘆息する。
土御門ソウシ率いる夢魔の『黒衣衆』が姿を消した時から、この日が来る事は判っていた。三高平に潜入しているエージェントも――全てではないが――大半が連絡を絶ち、警戒を厳にされて暗殺の目も無いらしい。事此処に至り、彼にとって選択肢は一つしかなくなっていた。
「アークと敵対するつもりは本当になかったのですがね。あの魔女の呪いは、然程に強烈でしたか」
そう仕向けられたのだ、ということを彼は既に認めている。忸怩たる思いではあるが、あの強かな魔女の方が一枚上手だったということだ。
「口惜しい」
さりとて、思わず口を突いた一言は彼の煮えたぎる本音そのものだった。
我が身の時間が惜しい。何故、己は魔女と同じ七百年を許されなかったのか。
何故、凡百の如く僅か数百年で『燃え尽きようとしている』のか……
(……しかし、思い切りのいい作戦ですね)
アークにしても、ウィルモフ・ペリーシュと同時に攻めてこられるくらいなら、北陸に陣取った彼の動きがないうちにラスプーチンに対して先手を打つ、というのは合理的な戦略だろう。
逆を言えば、それをギリギリの所で担保しているのは日本の守りと監視に当たる友軍『ヴァチカン』と『オルクス・パラスト』の存在が大きいのだろう。噂では『梁山泊』と『ガンダーラ』、ビッグ4に加え、『スコットランドヤード』までもが援軍を出した、とも聞いた。アーク本体も含め、リベリスタのビッグネームが一堂に会するのは世界中で活動するアークの信望と、ウィルモフ・ペリーシュの恐怖の双方が作用しているのだろう。
とはいえ、むざとやられるつもりはない。ここは彼の本拠地。魔術と科学が融合した地下要塞である。ソウシが情報を流しているだろうが、機械的にも魔術的にもその対策は出来ている。攻め込んで来るのはあくまでアークの部隊だけ。誘い込んで戦えば、自ずと勝機も見えてこよう。
と。
そこまでラスプーチンが思考を進めた時、こつん、こつんと固い靴底が床を打つ足音が聞こえた。姿を現したのは、長年彼に付き従った女騎士。
「我が君。セルゲイの手、儂の部隊共に、アークを迎え撃つ準備は出来ておるのじゃ。後は、奴らを待つばかりじゃの」
「ご苦労様です。よろしく頼みますよ、エイミル」
先の戦いで左腕を失ったエイミルは、その代わりに鋼鉄の義手を装着している。いつも通りの様子で戦いを待ちわびる彼女に、ラスプーチンは頷いてみせた。
「我らの悲願を達成し、あの女狐に罪を贖わせるまでは死んでも死に切れません。巻き込まれたアークには悪いですが、生き残るのは私達ということを教えてあげましょう」
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