「……全ては『希望の箱舟』に託された、という訳です。
しかし、この戦いは我々のものでもある。先にもお伝えしましたが『ヴァチカン』は正式にペリーシュを『聖戦対象』に指定しました。我々の信仰と矜持にかけて彼は野放しに出来るものではないという事です」
被害に遭った新潟にも多くの信徒が居たのは確実だ。
『聖杯の男』を自称する彼は『ヴァチカン』の沽券に関わる存在なのは間違いないだろう。
「……事態は惨憺たるものだ。
だが、リベリスタ達の行動は無駄じゃない。同様に新潟で発生した犠牲もだ」
深春は静かに言う。
「ウィルモフ・ペリーシュは己の成果を見せびらかしたい……子供と同じだ。
奴の幼稚な精神性は、少なからず我々に情報をもたらしている」
「……これまでの情報で、分かった事は多くないだろう?」
「いいや?」
深春は意地悪く笑った。
「類推に過ぎないがな。私は『聖杯』の正体に多少の見当をつけている。
少なくとも『聖杯』と呼ばれるそれが現在『出来る事』と『出来ない事』は理解した」
「ほう」とチェネザリが声を上げた。深春は枢機卿のプレッシャーにも構わず自論を展開する。
「欧州でのキース・ソロモンとの対戦。日本でのリベリスタとの対戦。そして新潟の被害。
これ等に使われたのは同じ『聖杯』だが、結果は全く異なる。
まず、第一にキース・ソロモンとの戦い。キース・ソロモンは推測するに『聖杯』により致命的なダメージを受けた筈だが、第二の戦いでリベリスタ達はこれを受けていない。新潟の一般人と――力の弱い革醒者が消滅したにも関わらず、アークのリベリスタ達は『無事』だった」
「……どういう事だ?」
「『聖杯』は微調整が出来ないのさ。ペリーシュの態度からして『聖杯』の使用は示威目的。
奴は恐らく新潟の時効果範囲を『人間』に絞った。
『シャイン』のような力の低い革醒者は諸共巻き込まれたんだろうが……
リベリスタ達は『聖杯』を使わずとも、独力で十分と踏んでいた筈だ。だが、奴は我々の部隊の九人を『逃がしている』。あれだけプライドの高い男が、おいそれと逃がすと思うか?
紅涙殿やウラジミール殿達に粘られたのは想定外だったという事だよ」
深春は「逆凪でも何処でも――有力な革醒者を抱える組織に新潟での被害状況を問い合わせてみろ」と言う。
「連中も今回の件には腸が煮えくり返っている筈だ。ましてや自分達が矢面に立ちたくないならば、その程度の協力は二つ返事でしてくれるだろうよ。
検証は必要だが、私の推論はこうだ。『聖杯』は連続使用が出来ない。そして、キースと新潟の件から最大効力は効果範囲と反比例の関係にある。私の言はあくまで殺傷力についてのものだ。アレに存在するであろう『願望機』の性能は不明瞭であると言わざるを得ないがね。それすら奴の『飲んだ』行為から想像は出来なくない。
ペリーシュは、先人(ラトニャ)に学ばない。己が至高と疑っていないからだ。しかし、それはアークに残された唯一の勝機であり、彼に残った唯一つの弱点であると言えるのだろう。
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