――さあ、俺様が命じるぜ!
リベリスタ達の注視の中、『ゲーティア』が光を放つ。すぐさまにキースの傍らに出現したのは序列五十六位の魔神『グレモリー』と、序列二十九位の魔神『アスタロト』の二柱であった。
「金色の獣、私に何を望まれるか」
「ホントに人遣いが荒いのね、キースちゃんは」
言葉こそ対照的だが、この美しい魔神達はキースにとって『比較的扱い易い』二柱である。
無論、彼等の力が他に劣るという意味ではない。気質的に義理堅く愛情深いグレモリーと、『個人的にキースが好みであるらしい』アスタロトは細かい願いを聞き届けてくれ易い、という意味だ。
「オマエ達にも意見を聞こうかと思ってよ」
「……ま、いいけどね」
キースが顎で指し示した『閉じない穴』にアスタロトは目を細めた。彼女にとって本質的に人間は同等存在ではない。召還主であるキースが自分を支配するだけの『魅力』を示し続ける限りは、人間社会に対する善も悪も破壊も秩序も彼等にとっては等価であるという事だ。
「……簡易探査をするまでもなく、非常に高等な術式によって構築された空間歪曲だ」
「同じ見立てだ」
「箱舟(そなたら)はこれの破壊を求めているのだろうが……」
アスタロトに比して人間自体を心配している節のあるグレモリーの美貌が曇っていた。
彼がそれ以上を言おうとするより先にアスタロトが言葉を繋ぐ。
「……『非常に高等な術式』って言うより、アレよね。これ」
口元を嘲笑にも似た嗜虐で歪めた彼女は何処までも楽しそうに言った。
「『性質の悪い女の情念がとぐろを巻いて佇んでる』って感じよね。言うなれば拗らせた処女みたいな」
「ケセラセラよ、こんなもの」と笑うアスタロトは何時になく上機嫌だった。
「例えば私やキースちゃんが『本気』を出して取り組んだなら『いつか』は突破出来る代物かも知れない。
でも、それって退屈よね。キースちゃんはデスクワークに耐えないし、私も真っ平。
つまる所、今回のオーダーで私達が出来る事って考えるまでも無く限られてるわよ」
「つまり、せめても害毒を遅延させる程度が関の山」
物言いは異なってもグレモリーの結論もアスタロトと同等であるようだった。
魔神の顕現と力の行使には大量の魔力を必要とする。そのコストはキースが身銭を切って出すものだ。もし仮に高等作業を長期に渡って行うならば、彼はそれ以外の動きを制限される。キースは良くも悪くも瞬間風速の男であるからそこまでの時間をアークにはかけないだろうし、
「しっかし、信じられない! 人間の癖にこれ仕掛けた女はホント、怪物だわよ!
何考えてるか嫌って程分かる。きっとね、この女馬鹿。馬鹿みたいに一途で、馬鹿みたいな望みを抱えて……
そんなの私達にだって叶わない。これだから、女って……」
女の情念の悪魔であるアスタロトに『最高評価』を貰うような執念は容易いものでは有り得ないのは確実だ。
「……ん、まぁ。結論はそういう感じだな」
『穴』を凝視していたキースが溜息と共に言う。
端末モニターの中の沙織が苦笑でそれに応えた。
『……グレモリーの言う遅延ってのは可能なのか?』
「ま、それ位はな。あれも出来ない、これも出来ないじゃ俺様の沽券に関わる。
クソ面倒くせぇが、それ位は乗りかかった船だ。手伝ってやるよ」
多少罰が悪そうに言ったキースに沙織は「ありがとう」と応じた。
かえってそんな風に言われればやり難い彼は小さく舌を打って、再び『穴』に視線を戻した。
彼は生来からの負けず嫌いだ。本来ならば、相手が『魔術』であっても負けるのも解けないのも真っ平だ。
しかし……
(……知恵の輪ってヤツだけは、ホント俺様嫌いなんだよ)
……幼い頃から捻じ切ったリングの数は数知れず。
鉄の輪ならばそれで済むが、アシュレイの魔術はそれよりは随分意地が悪い。
彼がかんしゃくを起こしても、捻じ切る輪はそこにはないから。
※『閉じない穴』の制御状態が悪化し、崩界度が77になりました!
但し、キースの協力により、崩界加速は遅延状態にあります。
戦略司令室討議結果!
1、キースに頼む
2、キースに頼まない
二択の内、『1、キースに頼む』が可決された結果、情勢が変動しました!
|