「勿論。つまり、リベリスタ達が持ち帰った二つの『鍵』は、その為の力になるって事です。一つ目は『或る大物』をこの世界に呼び出せるかも知れない『呪文』。二つ目はラトニャ自身を抑え付ける為のより直接的な力な訳ですが。
……ま、身も蓋も何も無く言ってしまえば『呪文』の方は簡単だ。前に――別のリベリスタ達が、これまた近しい異世界に飛ばされた事があったんですが。そこの王様にご足労願うと。
『火の神』とも呼ばれるクトゥグァは話によりゃラトニャの天敵だそうですからね」
智親は「呼び出した後は別問題」、「気に入られてる奴は気が気じゃないでしょうが」と付け加えるのも忘れなかった。
「まぁ、召還の追加条件やら様々な問題はまだ完全にはクリアされてませんがね。
まずは――首尾良くこの王様をラトニャにぶつけて力を相殺するまでは成功するとする。
問題はこの後。あの女は力を削いだ位でどうにかなる相手じゃありませんからね。
二つ目の『鍵』は――謂わば異界のアーティファクトとも言える存在だ。我々はこれを『ネクロノミコン』と称してますが――ま、洒落ですな。
問題はコレはそのキャパシティが人間には手に余りすぎるって点だ。使い手は――暴走させりゃ場合によっては最悪その周りまで――ほぼ間違いなくその命を落とす事になるって点なんですが。
……ともあれ、これは彼女を叩き潰すには余りに些細な力だが、彼女を一時抑える位の役には立つ。問題はそこまで条件を尽くして弱体化した彼女を抑えたとして、その間に我々が何を為すかという部分にかかってくるという訳ですな」
強大無比な敵を相手取るのに必要なのは必ずしも正攻法だけではない。ボトム・チャンネル――アークが求める結果は、あくまでラトニャ・ル・テップという害悪災厄のこの世界からの排除である。
「――もしや――」
倒せぬなら、どうするべきか――試すように言った智親の口振りに対して、最も早く並べられた事実同士を繋げたのはやはり灰色の頭脳を持つ深春であった。
「そう、元来た方の場所にお帰り頂く。アシュレイ殿に魔術的、神秘的見地からのアドバイスを頂きましたがね。最も確率と成算の高い『推測』はそこに集約されるでしょう」
「……ちょっと待て」
智親を沙織が止める。
「奴はミラーミスだ。仮に奴を押し込んだ後で『ドリームランド』の経路を閉じる事が出来たとしても。自分でまた穴をこじ開けて移動してくるんじゃねぇのか?」
「どうなの? ドクトル」
沙織とシトリィンの確認に答えたのは智親ではなくアシュレイだった。
「ウラシマタロウって童話、御存知ですよねぇ」
「……は?」
やぶからぼうの言葉に沙織は間の抜けた声を出し、シトリィンは首を傾げた。
「シトリィン様には西洋の伝承の方が良いと思いますけど。妖精の悪戯、なんて聞きません?
要するに、『夢のような楽園に招かれた男が、元居た場所に帰った時には世界はすっかり別の時代になっていた』と――そういうちょっとコワイ話なんですけどね」
「……まさか」
その現場に赴いたセアドはアシュレイの言葉にようやくそれを察した。
神と謁見した仲間は確か『あんな風』に言っていた筈だ――確かにそうだ。もしそれを『そういう風』に受け止めるならば、可能性は確かに十分に違いない。故に神はそんな慈悲を施したのだろう。彼等が――自分達が何の為にやって来たのかを知っていたから!
「『――永き時さえ浮上の侭に戻るだろう。現と夢に同じ時間は流れない』。
何百年も転寝だっていう神様の言う『永い』って一体どういう尺度だったんでしょうねぇ!」
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