下記よりログインしてください。
ログインID(メールアドレス)

パスワード
















リンクについて
二次創作/画像・文章の
二次使用について
BNE利用規約
課金利用規約
お問い合わせ

ツイッターでも情報公開中です。
follow Chocolop_PBW at http://twitter.com






▼下へ
TOP(2014/04/23)<ファウストの憂鬱>
種別: 全角200文字、改行無し    レス:500件

影の継承者(ID:BNE000955)
斜堂・影継

2014/04/23(水) 23:52:29 
http://bne.chocolop.net/img/top_bg/BNE_bg_20140423ex.JPG
<ファウストの憂鬱>

 揺らめく水晶球が『彼』の像を映し出す。
「予定通りの仕事とは言えないのでは無いかね?」
 皮肉に歪められた口元が嘲りを含んだ声と共にある種の嗜虐性を吐き出した時、ハインリヒ・バウマイスターは「それきた事か」と内心で苦笑いを浮かべていた。
「小生が『注文』した分量には少し足りないように思うのだが?」
「何事にも不測の事態はつきものだ、ヘル。
 ましてや『物騒な競合相手』の在る仕事ならば尚更でしょう」
 己以外の何者をも対等に認めていない――傲慢極まる『取引相手』の性質はその声色を聞けば確信出来るものだった。それが唯の勘違いならば幾分か救いもあろうものだが、悲しいかな。不具合ばかりのこの世界の運命は最も力を与えてはいけない相手に必要以上の力を与えてしまったのだから笑えない。
「失敗は罪。罪は罰で購われるものと、そうは思わないかね?」
「不合理的ですな。それでは『我々のどちらにもメリットが無い』」
 ネチリとした依頼主(クライアント)の言い回しに肩を竦めたハインリヒは頭を振った。
 取引相手が『黒い太陽』である以上、彼の側もこんな事態は良く心得ている範疇なのだ。
「私の今回の仕事は、少なからず貴方の研究を助けるものになった筈だ。
 貴方程の人間が他人に望むものは然して多くは無いでしょう。認められる結果もね。
 詰まる所、私は現時点でその辺りの有象無象より幾分か貴方の足しになっている。
 ……この私が、唯一無二と思い上がる心算はありませんがね。
 神の俯瞰をする貴方にとって私等、元より大した期待値にはないのでしょう?」
 悪魔とのやり取りで弱気を覗かせる事は破滅的な結果以外を産まない。ハインリヒは遠隔通信を介在して尚感じる絶望的なプレッシャーに冷や汗を流しながらも、その内心を表に出す事はしなかった。相手が自身を神とすら僭称する傲慢の塊であるからこそ、言い切れる。彼は最初から己以外の何者にも大した期待を向けていない。つまる所『期待よりはマシな結果を出した』がその本心であろうと推察している。
 居ないよりマシな人間ならば彼は制裁しない。
 何故ならば彼にとって毛先程にも価値のある他人等例外に過ぎないからだ。
 同時にそんな人間の望むものを与える事も、神(かれ)にとっては造作も無かろう。
 ……用心して対面を避けたとは言え、神(かれ)が自身を処刑するのも同じく児戯であろうという部分が問題なのだが。
「君は小生の機嫌の良さに感謝するべきだな」
「勿論。『究極研究』は順調の御様子で」
「凡百如きには理解出来ない極致だよ。小生だからこそ到達出来る『究極』故に」
「凡百風情は身の程程度の報酬が頂ければ文句はありませんがね。ヘル、約束の品は?」
「鈍い男だ。そこに『在る』のに気付かないと見える。
 尤も、そんなもの――『究極』に比するまでもない退屈な玩具に過ぎんがね!」
(それで、十分だとも)
 饒舌なるペリーシュの調子から毒が抜けた事にハインリヒは大いに安堵した。積極的に関わり合いたい人間ではない。彼との仕事は切れかけた吊り橋を走って渡るようなものだ。
 しかして、彼の作品は報酬としては破格の魅力を備えているのも又事実である。
『ペリーシュ・シリーズ』と呼ばれるアーティファクトの数々は好事家の中で大層な人気を誇るコレクター・アイテムである。殆どは悪辣な性質を持つ『迷惑な品』だが、彼の仕事を請け負った事で賜るそれは比較的正しい願望機として機能するという『まぁ、真っ当なもの』である。
「さて、無駄な時間はこれまでだ。小生には研究がある」
「……では、私はこれで。又、仕事の機会があればご連絡下さい」
 半ば独白めいて最早自身に何の興味も向けないペリーシュにハインリヒは温く笑う。
 向けた言葉は当然内心とは別の社交辞令に過ぎない。
 恐らく彼は本質的に自分がどうでもいいのだろう。彼の興味は退屈な玩具(ハインリヒ・バウマイスター)から完全に失せている。恐らくは『どちらでも良かったが、機嫌がいいから終わらせた』程度なのだろう。自身の命運がそんな不確かな気分に委ねられていた事実には流石の理知的な男も辟易を禁じ得ない。
 彼の『究極研究』が何を生み出すのかは分からない。しかして、二度三度とこれと付き合って破滅を免れる自信は彼をしても無かった。丁度あの時、関わり合いになったアークの方が幾分かマシだ。彼等は話が出来るし、取引相手としてならばあちらの方がずっとマシだ。
(さて、恨まないでくれよ。アークの友人諸君。
 これは、どうしようもなかったのだ。私も自分の命が惜しいのでね――)
『仕事を請ける事になってしまった時』からこの結末以外に逃げ場は無かった。
 人生とはかくも理不尽なものか。彼はフィクサードなりに真っ当に生きている。
 仕事に情熱がある、趣味もある。愛する人間も居る。神を気取って他全てを見下す悪魔とは違い、別段『人類の不幸』が見たい訳では無いのだが――
▲上へ