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<ラピス・ラズリの憂鬱>
「……そう、分かったわ」
時代掛かったアンティーク電話の受話器を置いたシトリィン・フォン・ローエンヴァイスは悩ましい溜息を吐き出して何とも微妙な表情で宙を眺めていた。
此処暫く欧州は騒がしい。良いニュースの方はあの信頼出来る同盟相手(アーク)が倫敦に巣食った蜘蛛の巣を払ったという事。一方で悪いニュースもかなり多い。『あの』ウィルモフ・ペリーシュの究極研究が最終段階に入ったという報告がある。『賢者の石』やその他のマジック・ブースターを狩り集める『ペリーシュ・ナイト』の動きが激しさを増しているのは確実な事実だ。彼の大研究なるものが実った回数はそう多くは無いが、例えば『前回』を例に挙げるならばそれはあの黒死病の大流行だ。それが完成する度、この世界は少なからぬ絶望を味わう事になってきたのだからこれは一も二も無く捨て置ける話ではない。
「……」
しかし、目下シトリィンの麗しい美貌を最大に曇らせている理由はそのペリーシュでは無い。
彼女の懸念は欧州リベリスタ組織がここ暫く連続して壊滅している話の方だった。
受話器の向こうから伝えられた憂鬱な情報は彼女の率いるオルクス・パラストにとっての悲報である。有象無象の中小組織が潰されるのは珍しい話ではないが、彼女ほどの大物でも中々頼りになると思っていた同盟組織までもが同じ轍を踏んだならば、これは捨て置ける段階を越えている。
(……嫌な予感がするわね)
冷静で合理的なシトリィンは余り勘を信用する方ではない。しかし、彼女は真に自分の中を『その感覚』が駆け抜けた時は――案外『当たる』事を知っていた。
何百年か前の――『あの時』もそうだった。
『クラウン・アクト』の宝石(ラピス・ラズリ)が死んだあの悪夢の日も――
「……胸騒ぎがする。『放っておけない何か』があるわ」
シトリィンは同盟組織が調査に向かい壊滅したというその村にオルクス・パラストの戦力を差し向ける事を決めていた。しかし降り積もる何とも言えない不安感はそれで十分という気持ちを彼女に持たせなかった。
(夫(セアド)に頼みましょう……
セアドなら、不測の事態が相手でも何とかする筈。それから――)
シトリィンはやや逡巡してから執務室の秘匿回線を海外に向けて繋ぐ事にした。
オルクス・パラストが『傭兵』を頼む事は少ないが、今回ばかりは頼りにしたい。
今をときめく神秘界隈のニュースターも、自分の頼みならば――断るまい。
※四国動乱『大晩餐会』により崩界度が5上昇しました。
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