――――あなたのおっしゃる事は正しい。
――――非の打ち所もなく輝きに満ちている。
――――しかし、すべての人があなたの言うように出来るわけではなく、
――――すべての人があなたの言うように望んでいるわけでもない。
――――だからこそ貴方は、先ほどのあなたの信念を曲げず、そうあれかしと祈り続けるのでしょう。
――――ならばボクは、そう出来なかった者のために生きる。
――――そうしたくない者のために生きる。
――――無知な者のために
――――愚かな者のために
――――怠けたい者のために
――――虐げたい者のために
――――辱めたい者のために
――――殺したい者のために
――――人と人の間に生きる人間で居られない者の為に、戦う。
――――彼らの正直で純粋で救い用のない心の為に生きる。
――――あなたの祈りが届かぬ所にも幸福が満ちるように。
――――何より、ボク自身に救われる権利があると証明する為に。
まだわたしが見習いだった頃、師匠の仕事には何度も同行していたのですが、師匠が本当に感情を露わにしたのは本当に少なかったのです。
何が師匠の逆鱗に触れたのかは今でもわかりませんが、その時の師匠は、冒頭のような長台詞を流暢にしゃべりました。
芝居がかっていて嘘臭く感じた一方で、精一杯の理性でなんとか芝居がかった嘘臭さを出そうとしているようにも見え、師匠の語る言葉が心からのものであると感じました。
わがままが叶いますように。
苦労をしませんように。
他人のことなんか知ったことではない。
このような思いは普遍性を持ちます。
「万人が我儘を求めているのに、どうしてそれを我慢しなければならないのだろう?」
そう思うこともあります。
我儘こそが飯の種であるヤクザ稼業のわたしだから余計に。
もちろん誰も彼もがそうしたら社会が成り立たないから、というのは頭では理解しています。
けれど。
何故性欲のままに相手をとっかえひっかえしたら責められるのだろう。
何故性欲のままに相手をとっかえひっかえするようなクズを殺してはいけないのだろう。
何故働きたくないのに働かなければいけないのだろう。
何故働かないような奴を生かさなければいけないのだろう。
何故全ての望みは矛盾をはらんで、一度に叶えることが出来ないのだろう。
ここでいう『何故』とは、「理由を知りたい」という意味ではなく「そうあれかし」という意味の反語的な意味です。
アルコールを入れるとわたしは利己的になります。
誰かの目を気にする気持ちが薄れ、自分の中にある様々なペルソナや思想がむき出しになります。ヒューガルテン旨い。もう一本。
見下す権利を。
踏みにじる権利を。
見下されない保証を。
いつでも被害者でいられる保証を。
罪悪感を感じない心を。
優越感に満ちた心を。
わたしの人生のすべてはこうした暗くて正直な望みを叶えるためだけにある筈なのに、どうして今も尚それは叶わぬままなのか。叶えよ。
サンダーが今トイレに起きてきました。
パジャマのズボンとパンツをずらして便座に座らせたとき、わたしはこの暗黒の誠実さを忘れて一体何を思っていたのか。思い出せないのです。
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