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TOP(2014/01/20)<『バランス』の崩れる時>
種別: 全角200文字、改行無し    レス:500件

影の継承者(ID:BNE000955)
斜堂・影継

2014/01/21(火) 23:47:45 
http://bne.chocolop.net/img/top_bg/BNE_bg_20140120ex.JPG
<『バランス』の崩れる時>


「……あの、野蛮人の下賤めが……ッ!
 何度叩き潰してやった所で飽き足らぬわ……!」
 千堂遼一が見る『クライアント』の姿は何時に無く激したものだった。何せ相手は大抵の局面に余裕を崩さず、例え腹の中に何を隠し持っていたとしても知らぬ顔をする事の上手い老人である。国内主流七派と呼ばれる大フィクサード集団の中でも最小の戦力と看做される『恐山』が、首領の中でも最低の戦闘力に留まるとされる『斎翁』がこれまで見事に裏社会を泳ぎ抜いてきたのは、彼の戦闘能力に拠らぬ部分での才覚あってのものと言い切っても全く問題は無いだろう。
「……ま、お気持ちは分かりますがね。ご老人。
 これは貴方も何れは……と想定していた範囲の話ではありませんかね?」
「だとしても、だ」
 千堂の言葉に不機嫌に鼻を鳴らした斎翁はまさに憤怒の有様である。
 長らくこの日本国内を占有して来たビッグ7が此の世の春を謳歌してきたのは――元を辿れば斎翁の計略、つまり『七派協定』による所が大きい。ナイトメア・ダウンで有力リベリスタを喪失した後の日本を統べるフィクサード同士の抗争が超規模を回避したのは、彼が提唱した相互利益協定、破滅を回避する為の幾つかのルールが大きく作用したのは確かだった。

 一つ、七派は共通の外敵に対して一定の協定と話し合いの機会を持つ。
 一つ、七派首領は直接行動の際、その事実を他六派に通告する。

 細々諸々を含めれば内容は多岐に渡るが、最も重要な点はこの部分である。
 七派同士は厳密な不可侵では無く、末端までをも見回せば小競り合いが生じる事は確かに日常茶飯事ではあったが――首領同士の対決、組織同士の全面対決が避けられたのは『くびき』の力に違いない。
 しかし、絶妙、細心に保たれたバランスを崩すのは何時だって『ちょっとした変化』である。
 逆凪黒覇が口にした国内八柱目――即ちあのアーク――は恐らく産声を上げたその頃から、斎翁の望んだ安定を崩す忌み子だったと言えるのだろう。この何年かに幾度と無く煮え湯を飲まされたアークの息の根を止める機会をこの斎翁自身が奪ったのは余りにも皮肉な『自業自得』と言う他は無いのだが……
(愚か者めが。今や一派では食い止め切れぬかも判らぬ箱舟(リベリスタ)を前に……
 何故、今このような形で暴発する意味がある……!)
 フィクサードの論理は大概にして自分以外に責任を求めるものである。斎翁の怒りも、呻くような怨嗟も無論全て『あの男』に向いている。『七派ルール』を完全に無視し、自ら出陣し――この程『大規模な何か』を完成させた裏野部一二三である。
 裏野部という組織を事実上放り投げた彼が何を考えているのかを斎翁は理解し得ない。彼の至極合理的な思考ではそのメリットが掴めない。凛子は興味を示さない。黒覇は『王』を理解し、百虎、羅刹は感心し、京介は喜んで、斎翁は唾棄している。
 少なくとも彼は一二三が望む『全てを統べる』というスケールではこの事実を見つめていない。荒唐無稽な夢見話を本気にするような人間ではない。それはある種恐山斎翁という人間の知性であり、同時に限界でもある――
 ともあれ、彼にとっての問題は後にも先にも一つきりだ。
「……で、ご老人。『ルール』はどうなったんですかね」
 千堂の言葉に斎翁は一層憮然とした顔になった。
 彼の脳裏に『黄泉ヶ辻京介ならぬ一人を欠いた首領会談』のシーンが蘇る。

 逆凪黒覇は言った。「成る程、裏野部の『シェア』は切り取り次第か」。
 剣林百虎は言った。「ま、一の字にしちゃ良く我慢した方だぜ」。
 六道羅刹は言った。「それが彼奴めの道ならば全ては必然」。
 三尋木凛子は言った。「潮時って事かねぇ」。
 黄泉ヶ辻京介は大笑いで言ったのだ。「ヒフミン・マイ・フレンド!」。

 ……頭痛を振り払うかのように斎翁は頭を振った。
 七派同士には協定の他にもそれぞれの関係がある。例えば恐山や三尋木は比較的逆凪に親しい、忌み嫌われる黄泉ヶ辻や裏野部はそれぞれに(少なくとも首領同士は)好意的であった……といった具合に。
 全ての連携が一夜に壊れる事は無い。網はまだ一定に機能している。
 しかして『七派ルール』が形骸化しつつある現状は斎翁の観測にこの後の激動を確信させているのだ。元・裏野部のフィクサードの内、一二三の『選ばなかった』連中の多くは他派――主に黄泉ヶ辻――等に合流しているようだ。黒覇が言った通り彼等のシェアは奪い合いの様相を呈している。小競り合いが増えればやがては拘束力を低下させたルールでは縛り切れない局面が現れるのは時間の問題だろう。関係を悪化させた七派間の連携が果たして共通の敵(アーク)に上手く向くかも怪しい所だ。
「千堂」
「はい?」
「少し、忙しくなるかも知れぬぞ。趣味では無いが、少し武力も要るやも知れぬ。
 大田老への要請は此方が受け持つとして……お前の仕事は分かっているな?」
「勿論。要するにご老人は自分だけ良ければいいんでしょう?」
 千堂の言葉に斎翁は苦笑した。敵はアーク、しかしてそのアークと最も『親しい』のは恐山。
 否、どの勢力とも『それなりにパイプがあるからこそ』恐山は恐山足ると言った方が正解だ。
「……バランスが崩れるのは僕も大嫌いですよ」
 そう言う千堂はしかして内心ではアークにある種の喝采とエールを向けている。
 正義と悪が1:7等彼の中では有り得ない。発足の頃から言っているが、同じ位が丁度いいのだ。勿論、アークが強過ぎれば全力で邪魔する心はとっくの昔に決めている。
「ククッ」と笑った彼はやや冗句めいて呟いた。
「でもね、仕事って意味じゃお嬢様の御守りよりはまだしもずっとね。バランスはいい」
 望む望まないにせよ賽は投げられた。
 果たして出る目は丁半或いはそれ以上。
 如何程なのかは恐山の謀王(フィクサー)にもまだ今は見通せまい――
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