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TOP(2013/10/30) <『ヴァチカン』の協力>
種別:
全角200文字、改行無し
レス:500件 |
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影の継承者(ID:BNE000955)
斜堂・影継
2013/10/30(水) 01:33:15 |
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<『ヴァチカン』の協力>
「先日はどうも、良い人間を派遣してくれたようでとても助かりましたよ」
ブリーフィングで通信を受ける沙織の今日の会話相手は少し珍しい相手だった。遥か西に数千キロ――イタリアはローマの中に密やかに存在する『ヴァチカン』。世界最大最強――ついでに最悪最凶――と呼ばれるリベリスタ組織の幹部である彼、チェネザリ・ボージア枢機卿は非常に機嫌良く、そして饒舌に言葉を続けていた。
「欧州には常に深刻かつ重大な懸念材料が多い。
倫敦の蜘蛛も厄介だが、『黒い太陽』の最大研究が進んだとの情報もありますからねぇ。我々としても有能な友軍の存在は心強いばかりという訳でして」
「そう言って頂ければ協力の甲斐がありますよ、枢機卿」
「是非、可憐なミスにも宜しくお伝え願いたい所ですな」
沙織は通信に愛想良く応え、室内に居るリベリスタ達の内の一人――澄ました顔で「当然よ」と言わんばかりに薄く笑った『運命狂』宵咲 氷璃(BNE002401)に「サンキュー」と目配せを送った。この氷璃を含めた数人のリベリスタ達が対応した『隠神事件』は結果としてかなり『ヴァチカン』側の意に沿う仕事だったという事である。大成功の一歩手前――言葉にすれば簡単だが、容易い話ではない。
多少の推測も混ざるが『ヴァチカン』は伝統が深く重い組織である。人種差別ではないが――極東日本のリベリスタと強い連携を行うに際してはある程度の抵抗もあった事だろう。『ヴァチカン会談』でも顔を見せたこのチェネザリ枢機卿が『親アーク派』であるのは間違いない。つまり良い仕事は推した彼の面目を立てる意味でも役に立ったという訳である。
「今後とも良い関係を構築する為には我々もアークに協力しなければいけませんね」
前置きを置いたチェネザリは声のトーンを僅かに抑えて言葉を続けた。
「アークが『ヴァチカン大書庫』に情報の提供を依頼した――願望機の件ですが。まぁ、本来は門外不出の情報になりますが、いいでしょう。ある程度の成果がありましたからね。お知らせする事にいたしますよ」
チェネザリが口にしたのはアークが過日の決戦で獲得した『渇望の書』のページに関しての報告である。極めて優秀と言えるアークの研究開発室と歴史上の神秘を大集積していると言われているヴァチカン大書庫の共同作業は沙織が傭兵契約を受諾した時の交換条件の一つであった。チェネザリがこのタイミングで話を切り出してきたのは彼なりの見極めの為なのだろうが。
「それで、何が分かりましたか?」
「『渇望の書』そのものの過去の記録と――それ以上に重大なのは『そもそもアレが何であるか』の方でしょうか」
「……?」
「アレに類する品物はこの世界の神秘史に――というよりは表の歴史も含めてですがね。影響を与え続けた『鍵』の一つという訳でして」
チェネザリの言葉に沙織は難しい顔をした。
全容は見えてこないが、一先ずは話を聞くのが先決と判断する。
「人類史にはこれまでもこれからもその歴史を大きく塗り替える赫々とした発明があり、発見がありました。それは技術を飛躍的に進歩させるものであり、無に新たな要素を作り出すコロンブスの卵だった訳です。
しかし、大きな発展は時に人に苛烈な運命をもたらす。火薬の発見が戦争を変えたように。一つの最終兵器が世界戦争に終止符を打ったようにね。人の世を豊かにするものは時に効率良く人間を殺す為の禍となる。それがいい事なのかどうなのか……
ああ、いや。勿体をつける心算は無いのですよ。つまりは『渇望の書』の欠片は無より有を生み出す鍵。アレは『神秘側』に寄ってはいるようですが、『本来この世界には無い品物の断片』という訳でして。アレはそう、言うなればアーティファクトと呼称するよりはアザーバイドとする方が意味合いとしては近しい。少なくとも『ボトムのそれではないアーティファクト』です。『部外者』なのはこの世界に『渇望の書』を含めた複数をばらまき、『進化』させたその『親』も含めてですが」
つまり、チェネザリはこう言っている。「この世界の転機となる幾つかのシーンには『渇望の書』と類似する存在、神秘が関わっていた可能性がある。今回の『渇望の書』も含めたそれ等はこのボトムチャンネルに本来存在し得ない異界のアーティファクトであり、それそのものがこの世界に無い神秘(はってん)を作り出す事が可能な力の塊であると。そしてそれを作り出した何者かと意思が存在するのは確実だと」。
「……まぁ、あれ程の品なら、ね」
元より非常識は知れている。
氷璃の言葉はリベリスタだからこそ重みがある。リベリスタの知識の中でも郡を抜く異常な物品は確かに分かりやすく『この世ならざるもの』を思わせるに十分であったからだ。
「結論を申し上げればね、アークは幸運だ。本体より切り離されている以上、欠片は意志による指向を持たない力の塊だ。これよりアークがアークの意思で制御出来るそれは極めて有意義な意味を持っている。正直、頂けるならばこちらに欲しい位ですよ」
「……まぁ、それは」
「分かっておりますとも。少なくとも私は、ね」
チェネザリの言葉に沙織は苦笑いを浮かべた。
「枢機卿。ちょっといいか?」
「はい、何でしょう。真白博士」
「つまり、『渇望の書』は『創造』出来るって事であってるか?」
天才・真白智親は少なくともアーク側の誰よりも早くチェネザリの言葉の意味を正しく看破した。智親の言葉もまた研究者特有の『不親切』なものではあったが、彼の言葉をチェネザリは軽く肯定した。
「……こりゃすげぇ」
呟いた智親を沙織は促す。
彼はようやく『はっきり』と渇望の書が持つ可能性を言葉にした。
「つまり、『渇望の書』の欠片は『今無い神秘』を創造出来るのさ。
本体から切り離されたそれはある意味、俺達の希望する形を可能な限り叶えながら。どう『使う』のかはこれから詰めなくちゃならねぇ話だが。
平たく言えば、こりゃ欲しい力が手に入るチャンスが到来してるって話だぜ!」
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斜堂・影継(ID:BNE000955) 2013/10/30(水) 01:33:43
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