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<『倫敦』へ愛を込めて>
「プリンス」
「……大切な話なんだろう? その呼び名は辞めてくれないか?」
「申し訳ありません。では『聖四郎様』」
凪聖四郎は国内主流七派『逆凪』の首領逆凪黒覇の異母兄弟である。傍流とは言えどその『やんごとなき血筋』を揶揄するように彼が『凪のプリンス』と呼ばれているのは半ばが冗談で半ばが親愛か悪意の入り混じる……中々難しい事情があるのだが。
「君が直接俺を呼び出す位なんだ。それ位は分かる。
何時も苦労を掛けてすまないとは思っているが――」
苦笑混じりで側近の継澤イナミに応えた聖四郎は状況と彼女の声色から今日の報告が比較的『重要なもの』である事を瞬時に察していた。聖四郎が主宰するフィクサード組織『直刃(すぐは)』は彼の野望の願望機である。日本刀の波紋を称した触れなば斬れん彼の組織は『一応建前上は兄黒覇と逆凪に従う傘下組織という事になっているが』彼の心は最終的にそれに甘んじる心算はない。どうにかしてあの兄を出し抜き成り上がらんと心に秘めている。
「――はい。お耳に入れておかねばならない情報をキャッチしまして」
閑話休題、継澤イナミは確かに極めて重要な情報を携えて『首領』の凪聖四郎を呼びつけたという訳だ。
「話を聞こうか。アーク絡みなのか、兄絡みなのか」
「ある意味でアーク絡みですが、専ら聖四郎様に重要な事でしょう」
「……アークと言えば、最近は海外への派兵を始めた所みたいだけど」
「はい。それも関連します。
つまり、話は簡単です。倫敦に『アレ』が出現しました」
「――――」
イナミの言葉は第三者が聞いても瞬時に理解に及ばない『不親切』なものだった。されど、明敏たる聖四郎は彼女のその一言だけで状況をほぼ正確に理解するに到っていた。
海外への派兵でリベリスタ活動を行うアーク。
倫敦に出現した何か。それが『聖四郎に関わるもの』だとしたらばそれは。
「……それは……激突は必至だろうね」
声色を僅かに殺して聖四郎は平静を保った。
倫敦に『アレ』が出現したというならば、アークが己の責任の下でこれに介入する可能性は極めて高い。同時に『アレ』の出現は『彼女』の関わりを殆ど確定的に裏付けている。
危険。しかし好機。
兄を丸め込むのは難しいが、捨て置く選択肢は有り得ない。
「如何なさいますか?」
「如何も何も」
静かなイナミの言葉に聖四郎は幾度目かの苦笑を浮かべる。
「『高い塔に閉じ込められたお姫様を助けるのは王子様の仕事だろう?』」
「成る程、それはプリンスらしい」
イナミの口調は何処か馬鹿にした調子を含んでいたが、女性らしい丸みを同時に帯びており――成る程、彼女は微笑んで彼を見つめていた。
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