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<『ヴァチカン』と来訪者>
「……『借り』を作ったとは思いたくはねぇんだが」
頭をぼりぼりと掻いた研究開発室長・真白智親は何とも複雑な表情で戦略司令室長・時村沙織にそんな言葉を切り出した。
「例の『ヴァチカン』からの土産の話なんだが……
要するにアレは『強力な革醒者のステージを上げる為の鍵』みたいだな。例の枢機卿も人が悪い。『皆様ならば、有効に活用出来るでしょう』たぁ、扱いの分からん人間には使う資格が無い、と言わんばかりだぜ」
「『ヴァチカン』からすりゃあ、ちょっとした邪道ってトコか。
……ま、有り難いには有り難いが贈り主を考えるとちょっと憂鬱ではあるな」
苦笑いを浮かべた沙織はチェネザリ枢機卿の顔を思い出して肩を竦めた。アークの渡欧――『ヴァチカン』との顔繋ぎはちょっとした『副産物』を産み落としたのだ。
アゴスティーノ枢機卿がアークに渡した『ささやかな贈り物』は鮮やかに揺らめく青を中心部に湛える拳大の宝石であった。外見、神秘的効能を持つ辺りは『賢者の石』や『忘却の石』にも似ているが、当然その作用は別である。
「……革醒者のステージを上げる、ねぇ。しかし、使い方は分からないんだろ?」
「効能の予測の方はかなりの自信があるがな。まぁ、もう暫く調査が必要って所だ。しかし、折角の土産が役に立つなら戦力の拡充は急ぐべきだろ」
「まぁ、そうなる。バロックナイツが何時まで大人しくしてるかも分からないしな」
万能の天才めいた智親には『大体』不可能が無い。
されど、このパズルを開けるには少しの時間が必要なようだった。少なくとも『ヴァチカン』のような輩が『その心算』で掛けた謎解きはそうそう簡単に解けるものではない。本来ならば、かなりの時間が状況の進展にはかかる筈だった。そう、本来の予定の通りなら。
『沙織さん、アークに――お客様が見えたようなんですが……
お通ししても大丈夫でしょうか?』
「……ん?」
小さな電子音と共に沙織のデスクのスピーカーが和泉の声を吐き出した。彼女が『通す事を前提』にしている以上、確実に信頼のおける――同時に重要な人物という証左でもある。
「いいけど。誰が来たの?」
問い返した沙織に答えた和泉の言葉は――ちょっとしたサプライズを帯びていた――
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