「……一応、其方の為にも『詳しく』話をさせて貰ったが。
今回、此方に来た理由を聞いてもいいかな、シェルン」
アーク本部の『混沌組曲対策本部』に訪れた賓客はシェルン・ミスティル。異世界ラ・ル・カーナを――アザーバイド・フュリエを取り仕切る長であった。エウリス・ファーレを保護した事を切っ掛けに異世界事変に介入し、ラ・ル・カーナの危機を救出した事からアークとフュリエとは協力関係を結んでいたのだが『諸々の事情から少し拗らせた結果』、現状は『冷却期間』を設けていたのが実情だった。
「エウリスから話を聞いたのです」
「……どんな?」
「この世界が――アークが危機を迎えていると」
流麗な美貌を曇らせ沙織の報告を聞いていたシェルンは水を向けられ、漸く言葉を切り出した。
「大きな被害が出ていると。少なからぬ誰かが殺されようとしていると。
――丁度、私達がそうだったようにアークが苦しめられていると」
淡々とした語り口でそう述べたシェルンの瞳に点る光は相変わらず水底のように深く。その感情の全てを看破させるようなものではない。しかし押し殺したように言う彼女の言葉からは『フュリエには不似合いな』微かな怒りの色と、断固とした決意のようなものが伺えた。
「誰も全てを水に流す事は出来ないでしょう。私達はそれを『身を以って証明した』。しかし、全てがそうでなかったとしても掛け違えたボタンは直せる場合もある筈です。感情を優先すると言うのならば、私にはそれを告げない理由が無かった」
静かなるシェルンは言葉を続ける。
「……確かに多くのフュリエの力はリベリスタの皆さんには及ばないでしょう。今皆さんが直面する脅威に直接対抗し、援護する事は難しいかも知れません。しかし激戦の中では人員も足りなくなる事と思います。私達の持つ『力』も含めて、フュリエも人命の救助、乱れた治安の維持――作戦のバックアップにならば少しは出来る事もあるかも知れません」
「それは――」
予想外の話に多少の驚きを覚えた沙織にシェルンは言った。
「フュリエはこの危機を見過ごしたくは無い。
貴方達が請うからではなく、私達がそうしたいと判断しました。
故に私達を許して欲しい。そして、私達も貴方達を許したいと思います。
過ぎた時間の為にではなく、此れより流れる時の為に。分かり合う事は――可能でしょうか?」
|