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TOP(2013/02/03) <逆凪の兄弟>
種別: 全角200文字、改行無し    レス:500件

影の継承者(ID:BNE000955)
斜堂・影継

2013/02/04(月) 20:11:58 
http://bne.chocolop.net/img/top_bg/BNE_bg_20130203ex.JPG
<逆凪の兄弟>

茨城県桜川市――
「……フン、これだから数を揃えるしか能の無い連中は困る」
 黒いスーツの男――『この国の神秘界隈で本来は自分が最も畏敬を集めて然るべきである』と思っている男は心底から失望したかのような声色で吐き捨てるように呟いた。男の目の前に広がる風景には日頃のどかささえ感じる関東の田舎の雰囲気は無い。彼を、逆凪黒覇なる人物をこんな場所に赴かせた『理由』の存在は確かに町を恐怖の色に染め抜いていた。少なくとも傲岸不遜に東アジアの島国を蹂躙する外国人は得意満面であった筈だ。つい、先程までは。
「兄者のお目当ては例の――ケイオスだっけ?」
 眼鏡の奥の瞳を細め鼻を鳴らした黒覇に似ても似つかぬ大柄で粗野な雰囲気を纏った弟――邪鬼が問い掛けた。
「せめてもバレット・パフォーマーかシアー・シンガー。
 或いはモーゼス・マカライネン位の名前を聞けねば我々が赴く価値も無かろう」
「違いねぇ。俺様も暴れてやるかと思ったら……チッ、唯のはずれかよ」
 状況を前にしてもマイペース極まりない二人のフィクサードに――逆凪の兄弟に相対する『楽団員』は確かに困惑していた。
「……何だ、貴様等は……」
 震える言葉の響きは乾いた冬の空気に奇妙な音色を点していた。
 場違いとも言える一張羅、燕尾服を着た『楽団員』の前に立つのはたった二人。十重二十重に彼を守る死者はその十倍では効かない筈。それなのに、震えが止まらない。『楽団員はひとかどのフィクサードであるが故に相手の力量を知らずには居られない』。
 つまる所それは蛇を目の前にした蛙の心境にも似ていて――
「――まぁ、いい。彼等を喰らうには及ばぬまでも、たまの外国料理を堪能するも一興だ。邪鬼」
「おうよ、兄者」
 流石に兄弟である。邪鬼は兄の言葉からその意図を綺麗に理解し、機嫌良く頷いた。
(ふん、少し遊んでやるとするか)
 逆凪の兄弟の対戦相手にこの程度の小物冗談が過ぎるが、そこはそれ。あの『うらなりの青びょうたん』は何でも恋人に逃げられたばかりらしい。くだらない理由でこの場に立てぬ彼よりは、自分が損ねた兄の心象を回復するのは間違いない。本家の自分が分家の餓鬼に劣ると総帥に思われては憤懣やるかたないのだ。これは好機に違いない。

 おおおおおおおお……!

 一声咆哮した邪鬼の肉体が更に隆々と盛り上がる。「かかれ」の号令と共に飛び出した死者の攻勢が前に出た彼を飲み込みに掛かるが、さながら重戦車の如き彼の直進はそんな死者達を木っ端のように蹴散らしていく。
 ネクロマンシーも、全ての技も。
 単純に圧倒的な暴力の前には為す術も無い。多少の傷を逆凪邪鬼なる男に刻んだとしても、彼の猛進は止まらぬのだから意味は無い。
「く――」
 退くか、倒すか。
『楽団員』にそれを悩ませたのは彼が持つバロックナイツ旗下であるというプライドが故だった。栄光に満ちたケイオスの『混沌組曲』の一端を預かる身であるという矜持が故だった。
 しかし、彼が即断を下さなかった事は結果的に不幸以外の何者でもなかったのである。
「精々、抗いたまえ。
『誰の持ち物』に、『誰の縄張り』に手を出したのか。
 理解し、後悔し、呪い、苦しみ――抗えるだけ抗いたまえ。
 さもなくば、この私の、逆凪黒覇の腹の虫は収まらんのだよ」
 ――薙ぎ払われた死者が道を開けていた。
 邪鬼の背後に控える黒覇の視線は何処までも冷たく真っ直ぐに『楽団員』を射抜いている。
 蛇は獲物を飲み込むものだ。丸呑みにして、ゆっくり溶かす。
 大した味わいは期待出来まいが『これでまた自分は強くなる』のだ。
「甘く見るなよ……!」
 虚勢か本音か。
 叫んだ『楽団員』の姿に貪欲で、傲慢な男の唇が微かに歪む。
「無論、甘すぎる料理は沢山だ。Buon appetito!」
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