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12/11/17 <混沌、開演>下
種別: 全角200文字、改行無し    レス:500件

影の継承者(ID:BNE000955)
斜堂・影継

2012/11/17(土) 12:10:36 
「兎に角、うちにはうちのやり方があんの。
 実際問題、うちの連中はそれでも結果を出せるんだからな。
 ……で、シトリィン。お前の用件はそれだけなの?」
「違うわよ。それだけだったらまるで私が強請りに来たみたいじゃない?」
 沙織は内心だけに「お前ってそういうタイプだろう」と余計な一言を思い浮かべる。そんな彼の心を知ってか知らずか『社交界の食虫花』の異名を欲しいままにするローエンヴァイス伯はマイペースに言葉を続けた。
「動いたわよ、バロックナイツ」
「――――」
 聞きたくは無かったその言葉はしかし嫌が応無くに良く響いた。
 沙織の鼓膜に突き刺さった言葉のナイフは予期されていた――しかし出来れば忘れてしまいたかった悪夢の再開そのものである。
「動き出したのはケイオス・“コンダクター”・カントーリオ。彼がイタリアを発ったのは既に確認されている。分かっていると思うけど、入国の水際で食い止めるのは流石の時村家でも不可能でしょう。今度も日本が戦場になるのは避けられないわね」
「……ケイオスって言うと例の『混沌』事件の?」
「そう。おさらいしておいた方がいいわよね。ケイオスがポーランド最大のリベリスタ組織と戦争を起こしたのは今から五十三年前。正確にはプラス四ヶ月。当時相応の戦力を誇った彼等『白の鎧盾』は僅か数ヶ月程度の間に完全に壊滅させられた。下手人はケイオス自身と彼が指揮するオーケストラ『楽団』よ。ケイオスと『楽団』はその全てが一流の死霊術士(ネクロマンサー)。『楽器』と呼ばれるアーティファクトを持つ彼等は『死者を戦力にする事が出来る』。幾ら頑張って最初は互角に戦えたって最後は無残よ。『白の鎧盾』は死した自身の戦友、僚友達に飲み込まれたようなものなんだから」
「……」
「死人を出さないように戦うべきね。出来るかどうかは知らないけれど」
 沙織は表情を僅かに歪めた。つまる所、ケイオス一派を相手にリベリスタを喪失する事は敵を増強する事に等しいという話なのだ。そしてそういったある種の『揺さぶり』が甘いとも称されたアークのリベリスタに覿面の効果を与える事は分かり切っているではないか。
「詳しい話はアシュレイにでも聞けば良いと思うけど。
 ケイオスは『対軍戦闘のスペシャリスト』と言えるわ。詳細は兎も角、個人の戦闘能力は『バロックナイツの中では低い』とされているけれど、軍と軍と戦わせるやり方においては悪夢めいた実力を持っている。そういう意味じゃジャック・ザ・リッパーとは全く別の存在ね。勝機はその辺りにあると思うけど、でもね。重要な話がもう一つ」
 先を促した沙織にシトリィンは肩を竦めてその一言を吐き出した。
「それは、『白の鎧盾』の連中も理解してたのよ。
 ケイオスをどう対処するべきかを知りながら惨敗した。
 ケイオス・“コンダクター”・カントーリオは自分の能力を知っている。そして自分の戦い方を極めている。彼の特技は死体繰りともう一つ。それは自分の位置を決して他人に気取らせる事をしなかった、世界最高峰とも言うべき隠蔽魔術なのよ」
 シトリィンは「神の目は混沌も見通せるのかしら」と軽く笑った。
 悪魔めいた彼女は何処か楽しむ風でもある。それはアークへの信頼と受け止めるべきなのか、意地悪と受け止めるべきなのかを沙織は咄嗟に判断出来ない。
「期待してるわ、沙織」
 天敵の駆除を無責任に期待するシトリィンは成る程、『有り難くないあだ名を頂戴する女に相応しく』どうにも食えそうもないのであった。
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