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<失楽園の乙女達>
「……そうですか」
報告を受け、静かに呟いたシェルンの声色には彼女には珍しいハッキリとした感情が滲んでいた。シェルンが聞いたのはリベリスタ達の――アークの下した決断の旨である。非常な小差ながらも『フュリエを選んだ』彼等に対して彼女が見せた感情の色はまず『安堵』であり、その次に『罪悪感』であり、最後に『感謝』であった。
「……彼等は私達の気持ちを同じように察する事は無い。
しかし、私達も彼等のそれを汲み取れないのは同じだったのでしょうね」
「シェルン様……」
凛然とした長の僅かな苦悩と後悔を鋭敏に感じ取れるのは、エウリスがシェルンと同じフュリエである……『からではない』。そういった種族の特徴以前の問題で、相手の事を真っ直ぐに見て慮ったならばそれは簡単に分かる事実なのである。
「ボトム・チャンネルの人間は私達とは違う。
彼等は彼等である為に、お互いをお互いと認める為にまず分かり合わなければならない。私達の生は意思を伝える手段に乏しすぎ、私達は余りにそれに無頓着で稚拙過ぎた……」
『元よりそう生まれ落ちたフュリエが変わる前にそれを知らなかったのは』責めても意味がある事では無い。しかして、シェルンはそれが『自身がリベリスタに苦渋が過ぎる選択肢を突きつけた事実』に対しての免罪符になるとは思わなかった。
悪罵も受け入れよう。如何な謗りも然りである。
……意見が割れた事は本当に――心から感謝している、それは間違いの無い――恩人を苦しめ、傷つけた事を意味しているのだから。
(……でも、それでも譲れないものはある)
千年の時を生きても、これが初めて。
胸を刺す痛みをシェルンは知った。
楽園の外の――茨の園の意味を知った。
変わる事は時に喜びで、変わる事は大抵の場合呪いであった。
シェルンは小さく頭を振って、それからもう一歩を踏み出した。
自身の居た楽園を振り返ろうとはせず、彼女は凛と声を張る。
「――バイデンを、滅ぼします」
やがて来る時間の先に、あの友人達に『許して貰える』ように。
シェルンはそれを願い、唯の一瞬――瞑目する。
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