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12/10/17 <失楽園>前
種別: 全角200文字、改行無し    レス:500件

影の継承者(ID:BNE000955)
斜堂・影継

2012/10/17(水) 22:09:38 
http://bne.chocolop.net/img/top_bg/BNE_bg_20121016ex.JPG
<失楽園>

「……成る程、『ミラーミス』を仕留めるってのはこういう事か」
「お陰様でこうして……この世界に足を踏み入れる事が可能になった事を嬉しく思います」
 アークの地下、戦略司令室で向かい合うのは言わずと知れた部屋の主である時村沙織と、あのフュリエ達を束ねる族長であるシェルンであった。
「まずはお疲れ様と言っておく」
「いえ、こちらこそ。此度の戦いは何より皆様の尽力あればこそのものでした。私は、フュリエはこれに心から感謝をしております」
 深々と頭を下げるシェルンに沙織は小さく苦笑いをした。ぞっとする程の美人が相手である。彼の流儀と趣味としては――神妙な顔で頭を下げられるよりも頬の一つも赤らめて微笑みかけられた方がずっといい、と。そんな風情は改めて語るまでも無い。
「……それはそれとして『こっち』までご足労願ったのは今後の話をする為だ。外交相手を呼びつけるような真似をしたくは無かったがね。生憎と俺はお前達より弱いから許せよ」
「はい。お話は私もしなければならない……そう思っておりました故」
 沙織の冗句にくすりともせず、シェルンは真っ直ぐに彼を見た。ラ・ル・カーナ異変は世界樹のリセットで一応の収束を見せた。突然もう一度R-typeでも出現すれば話は別だが、その可能性が極めて低い以上は今話し合うべきは次の段階であるのは明白だった。フュリエ達は少なくない犠牲を受け、バイデン達はその殆どが死滅した。リセットされた世界樹は平穏を取り戻し、危険な巨獣はそのなりを潜めた。荒野化していた土地には緑が急速に芽吹いているという。ラ・ル・カーナの果て、残るバイデン達の暮らす集落周辺を除いては。
「……今後、お前はどうしたい?」
「忌憚無き意見を述べさせて頂く事をお許し下さい」
 腹を探り合う言葉をお互いに投げかけ続けるのは時間の浪費である。ややあって沙織は事の本質へと迫る問い掛けを投げかけた。シェルンもそれは予期していた問いだったのだろう。澱みなく返された『確認』に彼が頷くなり、静かに言った。
「私は――フュリエはバイデンを『絶滅』させる予定でおります」
 朗々と響いたその言葉には一切の妥協を許さない強い決意が滲んでいた。口の端を歪めた沙織が息を吐く。
「……思ったより思い切ってきたな。想像は、していたが」
「現在のバイデンの戦力は極小です。フュリエは彼等に比べて弱く、個々の能力では到底叶わない存在ですが。これ程に数が違えば話は別です。フュリエにはバイデンを生殺与奪出来るだけの状況が揃っていますから」
「共存は、出来ないと」
「……以前にも申し上げましたが、バイデンは森を枯らす存在です。バイデンが未来永劫この数を保ち、我々を脅かさないというのならばそれは可能なのかも知れません。しかし、バイデンはあの無形の巨人の落とし子です。世界樹より巨人の因子が消去されたとは言え、ラ・ル・カーナを枯らす彼等がどんな悪影響を及ぼすかも分かりません。
 いえ――包み隠さず言うならば、それよりも何よりも――」
 シェルンはそこまで言ってから玲瓏なる美貌を歪めた。
 これまで無表情を押し通してきた彼女が見せたハッキリとした感情は怒りであり、無念であり、やるせなさであり、そんな自分への困惑ですらあった。
「――私は、彼等が許せない」
 血を吐くような一言は本来の――『完全だった頃の』フュリエが、彼女が持つ筈も無かった『人間的感情の吐露』だった。ラ・ル・カーナ異変でバイデンが得たのは寛容であり情けだった。フュリエが得たのは勇気であり怒りであった。元々一方のみにしか存在しない要素を分け合った結果、近付いたかに見えた距離は果てしなく遠ざかっている。
 ……丁度、世界で一番有名な神代の伝説で。無垢なる人間が『善悪の知恵の実』を齧ったが故に楽園を追われたのと同じように。
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