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<たかが、そんな疵>
枯れ果てた荒野の砂塵を巻き上げるのは血の臭い。
爛れる程の憤怒と、噎せ返るような絶望と、まさに形を成した不安が溢れかえるような戦場に平静な顔をしている者は少ない。
十全な準備の下、『済し崩しに始まった』荒野の騒乱は全く慌しく凄絶で――さりとて『想定の範囲を出る事は無く』推移していた。
ラ・ル・カーナの中央に聳える狂った世界樹を目指すのは世界を代表する種であるフュリエであり、革新する者であったバイデンであり、数奇な運命に導かれこの地を踏んだリベリスタ達だった。それぞれ、東方、西方、南方より攻め手が寄せる。三軍の進撃は狂おしい程の傷みを抱える目前の大地に鮮やかな色彩を織り成すかのようだ。
「さて……」
しかしそれでも。コートを風にはためかせ、眉根を寄せた深春の前に広がる光景は――状況は決して良いものとは言えなかった。
無形の巨人より発された『影響力』によりその性質を暴走させた世界樹は完全世界に『全てが不完全なもの』を溢れさせている。刻一刻と生み出されては増える変異の落とし子は無数であるかのようにも感じられる。ラ・ル・カーナに産み落とされた『そうでないもの』までもが狂化し、変異に飲み込まれれば状況は一層深刻になる。
(……爆弾を背負って戦っているようなものだ)
形の上では友軍でもバイデンは何時どう変わるか分からないのだ。
死闘に意気軒昂なる彼等の、その数は哀れなまでに減じていた。理性を失って暴れ回る変異体の中には元々彼等だったものが多く混ざっているのだから当然ではあるのだが。
空より、地面より、その底より。襲来する変異体を、世界樹の根を避けながら、倒しながら、引きつけながらリベリスタ達は進軍する。遅々として進まないその歩みは実際の所、『それでも最高の努力の上で導き出された結果』だったのだが、時は金なりを痛感する現場においては焦燥感は積もりに積もった。
焦れる展開。
血で血を洗う戦場にフュリエが、バイデンが倒れていく。
汚れた液体が地面を濡らし、潤い足り得ぬ悪臭が否が応なく鼻についた。
痺れる展開。
僅か数十パーセントに満たない可能性に挑む者達。
死が死を望む戦場(ダンス・ホール)にキャストが集う。
強靭なる運命さえ、隔絶された世界の果てに届くものか。リベリスタの命運とて、神(ミラーミス)の前には蝋燭の細い炎に違うまい。
――一しかし、攻防は確かな意味を持っていた。
敵は減り、抑えられ、或いは押し返されたのだから。
無明の戦場を攪拌し、その『時間』を動かし始めたのだから。
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