「綺麗です――」
ゆうしゃのつるぎを手に 『勇者を目指す少女』真雁 光(BNE002532)が見上げた異世界の空は七色に染まっていた。無数にも思える光の球が――フュリエ達のフィアキィが空を舞う。キラキラと光の粉を撒き、傷みに傷んだリベリスタ達を励ましている。
「これは、いよいよ頑張らないといけませんね!」
「私も――負けないから! ここが勝負だよ!」
「しっかりして下さいまし――!」
アーク側の回復手も―― 『子煩悩パパ』高木・京一(BNE003179)や、 『いつか出会う、大切な人の為に』アリステア・ショーゼット(BNE000313)、 『節制なる癒し手』シエル・ハルモニア・若月(BNE000650)も最後の力を振り絞る。
「さあ、もう一度いきましょう」
「いいぜ! 一気に――!」
「任せとけ! おおおおおおおお!」
乱戦の中、 『空中楼閣』緋桐 芙蓉(BNE003782)に支援を受けた ツァイン・ウォーレス(BNE001520)が、咆哮した 『影の継承者』斜堂・影継(BNE000955)が戦線を押し返す。
「これも――戦争ってね」
「どんなに違ったって、全部中身は骨と肉」
「全てを無駄にする訳には、うちもこの場を――!」
勝たねば意味が無い。それを痛い程に知った『リベリスタ見習い』
高橋 禅次郎(BNE003527)が、共に支え合う『骸』
黄桜 魅零(BNE003845)と『空泳ぐ金魚』
水無瀬 流(BNE003780)の二人が強く、強く気を吐いた。
一時はバイデン優位に塗り替えられるかに見えた戦場のあちこちで綻びは大きくなっていた。力弱きフュリエはバイデンに立ち向かえば簡単に倒されてしまう。しかし、それでも――彼女達は倒れても、例え命を失ったとしても。『本来の完全な有り様とはかけ離れて』リベリスタ達を支援する。彼女等の力は戦場に赫々たる戦果を現す主役達とはまるでかけ離れたものだったが――弱き力も束ねれば時に確かな武器と変わるのだろう。
「……プリンス!」
「思いのほか、面倒な連中。フフ、最初からそうすれば良かったのだ!」
「ここで、撃ち抜く――!」
盛り返したリベリスタ側の集中攻撃にプリンスの駆るグレイト・バイデンが大きく揺れた。凛とした声を張り、その圧倒的な演算能力を研ぎ澄ませ、完璧な一撃を見舞わんとする 『ピンポイント』廬原 碧衣(BNE002820)の指先が真っ直ぐにプリンスの横で巨獣にしがみつく戦士グワランの眉間を捉え、その巨体から振り落とした。
「プリンス、どうする」
「……」
後方から合流する大戦力と合わせれば死闘はまだこれよりと考えられない事は無い。しかして、リベリスタ側の勢いはこの時、バイデン側のそれを越えていた。元々の戦場がリベリスタ側に優位なら、増派を相殺すればそれも已む無し。
「……退く」
「……目の前に闘争があるのにか!?」
プリンスの予想外の一言に副官のイゾルゲは声を荒げた。目の前に広がるのはバイデンにとって何にも勝る至上の一時である。誰よりもバイデンらしいプリンスの言葉は彼にとって俄かには信じ難いものであった。
「ああ、退く。これまでフュリエを数に数えた事は無かったがな。
フフ、これはまだまだ楽しめるぞ。奴等が剣を取るならば奴等は我等の認めるべき敵なのだ。
済し崩しに、『リベリスタのついで』に相手取るのは悪食というもの!」
プリンスの言葉は――彼自身それを自覚はしていなかったが『バイデンの本懐』とは違うものであった。『目の前に佇む死を前に、時を移ろう事』等、当の彼自身これまで受け入れた事は無い。
プリンスも、それ以上異論を挟まぬイゾルゲも『ある意味においてフュリエと同じように、本来あるべき完全性』を失していた。
されど、歳若く未熟な彼等はシェルン程には己を知らぬ。それをこの場で理解する事は無い。
「バイデンが、退いていく……」
肩で息をしながら、消耗を隠せない 源 カイ(BNE000446)が呟いた。累々と転がる赤い巨人の、巨獣の死体は時に原型すら留めていない。血の大河を横たえた荒野の戦いは余りに痛ましく、彼等の望む所だったろうに。残る精強な戦士達はやがて後退していくのだ。
――箱舟の復讐はアーク側の勝利となった。
この日、リンク・チャンネルとラ・ル・カーナ橋頭堡周辺に勢力圏を回復したリベリスタ達は、一時の勝利の休息に身を横たえる事になる。
それは、酷く暑い八月の日の出来事だった。
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