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<果断なる者達>
「ある意味で案の定と言うべきか……」
結果を受けた時、時村沙織は少し呆れたような、それでも最初から分かっていたかのような複雑な表情を見せていた。
「……お前達って、本当にお前達だよな」
目を閉じてそんな風に言った彼の口元を諦めと苦笑と――それから安堵とが歪めていた。この困難な局面にリベリスタ達が選び取った『決断』は実に勇気ある、果断なものである。そして単純な損得計算のみに拠らぬその結論は大いに、実に大いに沙織の予想の範疇でもあった。
――可及的速やかにラ・ル・カーナに再進撃すべし――
意見を発したアークのリベリスタの大半が支持する今後の方針は全く苛烈なる強硬論であった。先の敗退より長い時間が経った訳ではない。防衛戦という優位をもってしても止め切れなかったバイデンの実力を過小評価している訳ではない。しかしそれでも彼等には譲れないものがあったという事だ。『たかだか八人の捕虜が見捨てられない』。それこそがアークの強さでもあり、弱さでもある。
「そうね」
沙織に小さく首肯して声を掛けたのは来栖・小夜香(BNE000038)だった。
「負けてばかりで勝ち目が薄いのなんて百も承知よ。それでも私は助けたいわね」
上沢 翔太(BNE000943)が言う。
「俺達はそういうもんだ。世界が大事、世界を守る……
それも確かだが、心情で動いてるのだって多い。切り捨てて考えるなんて出来やしない。
その辺上手く皆を動かすのが沙織、お前の役目だろ?」
宵咲 氷璃(BNE002401)が肩を竦めた。
「殴られたから殴り返す、奪われたから奪い返すだけ。バイデンが敵を求めるのならバイデン好みの敵となるだけよ。それ以上に理由が要る?」
薄い唇に蟲惑を思わせる笑みを乗せた彼女はからかうような調子で、冗談めいた調子で、試すような調子で言葉を続けた。
「ねぇ、沙織? あの程度の敵も倒せないでバロックナイツを倒せるの?」
ある意味で目の前の彼に『全幅の信頼』を寄せる彼女の口振りはまるで失望させてくれるなと言わんばかりであった。苦笑いの色を強めた沙織を真っ直ぐに見つめているのは源兵島 こじり(BNE000630)も又同じである。
「時村君」
深い色を帯びた桃色の瞳は心なしか僅かに潤んでいる。良く彼女を知り、良く彼女を観察している人間でなければ到底気付かない程に極々僅か。
「中核を担う者を多く失えば今後のアーク事態に影響が出てしまうでしょうし、放っておきたくても放っておけないでしょう? もし行かないと言うのであれば、私はアークを抜けるわ」
こじりは――自分自身誰よりも、それが虚勢である事を知っている。しかして、彼女は胸を張る。両の足で地面を踏みしめ、ぐっと張る。そんな行為に何の意味が無い事を知っていても、自分自身の力がどれ程か弱いものかを知っていても。
可愛げなんかは見せてやらない。やせ我慢でも弱い所は見せられない。
(――それでもこれが、源兵島こじりよ)
彼女の、矜持。
「お前達は馬鹿なんだろうな。馬鹿なんだろうが、俺はその結論が嫌いじゃない」
ややあって目を開いた沙織は何時もの不敵な表情を取り戻してそう答えた。
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