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TOP(2012/07/22) <シェルン・ミスティル>
種別: 全角200文字、改行無し    レス:500件

影の継承者(ID:BNE000955)
斜堂・影継

2012/07/23(月) 00:20:03 
http://bne.chocolop.net/img/top_bg/BNE_bg_20120722ex.JPG
<シェルン・ミスティル>

 青く一面に水を湛えた世界樹の水源の上を流麗なる女性の影が滑る。
 その実、雌雄の別を持たぬフュリエの場合、元より『そういう』概念は無いのだが――それはそれとしてもフュリエの族長、シェルン・ミスティルは美しい。
「……」
 世界樹の根元まで到達した彼女は口の中で僅かに何かを呟いて、節くれだった巨木の一部に白く長い指をそっと這わせた。
「……、……、……………」
 長い睫を伏せ、ボトム・チャンネルには無い言葉を紡げば彼女と世界樹それぞれが光を放ち、瞬いた。世界樹とリンクするのは守り人たる彼女の役目である。痛ましい『異変』以来壊れてしまったこの世界では、世界樹が相手では――必ず満足する結果を引き寄せる事は難しいのだが。
(どうあれ、バイデンが本格的に動き出した今となっては……)
 これを受け止める為の態勢を可及的速やかに整えなければならないのは確実だ。『外』の人間達に頼るならば、彼等と効率的に意志を疎通する方法も必要になるのは明白だった。
 意を決めたシェルンは万物の創造の海たる世界樹の『中』へ意識を潜り込ませた。ラ・ル・カーナの全てを構築し、全ての時間と歴史を蓄えるその水底はかつて見たそれよりも圧倒的に濁っていて、透明度を失っている。滅茶苦茶になったラ・ル・カーナと同じように在り様を変えてしまった世界樹の中を何とか掻き分け――彼女はやがてその最奥へと到達する。
(……世界樹に、この知識を残しましょう)
 一は全。全は一。全ての始まりは一本の樹であり、全ての存在は枝分かれした兄弟姉妹。ラ・ル・カーナの在り様は何処までも世界樹に依存し、頼りきっている。なればこそ、世界樹が『知った』事実はこの世界の存在が共通して知る『常識』となる。
「――――」
 持っていかれそうになる、呑まれそうになる――体の中が冷え切るような感覚を、纏わり付く泥のような強い意志を何とか振り払い、シェルンの意識は現実世界に浮上した。
「……何事も、無ければ良いのですが」
 久方振りに『潜った』世界樹の深層は以前よりも混迷を増していた。それを肌で知るが故に彼女はもう一度そこに到りたいとは思えない。濁った沼の奥底で煮えていたのは憤怒。あのバイデンに似た理由の無い憤怒。無形の巨人が抱いた憤怒……
「……何事も」
 シェルンの独白は幽かで吹き抜けた風はその響きを簡単に散らした。
 その希望的観測を大いなる愚かと知っていたのに。
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