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<倫敦へ愛を込めて>
「アロー、アロー。ミスタ・ジェームズ! ご機嫌いかが!」
その表情に満面の喜色を浮かべて受話器を片手に高く声を張ったのは今、日本を密やかに騒がせている混乱の主、『六道の兇姫』こと六道紫杏その人であった。客観評価をして『人を人とも思わない』と名高い彼女だが受話器の『恩師』に対してだけは別である。頬を紅潮させ、何処か興奮しているかのように言葉を紡ぐ彼女は奇妙な事に飼い主に甘えてみせる子犬の印象さえイメージさせた。それは当然側近であるスタンリー等から言わせれば『他に有り得ない』中々見られない光景なのである。
「酷い方! これが落ち着いていられましょうか。例の実験ですけれど、プロフェッサーのお助けの甲斐もあって劇的に進歩しましたのよ! 『ダウン現象』の確率が飛躍的に低下し、被験体が安定! 戦闘能力にも加算が見られこのままなら『キマイラ』は……」
「流石、私の教え子だ。鼻が高いよ、六道紫杏」
『教授』の落ち着いたバリトンによる褒め言葉が紫杏のプライドを心地よく擽る。彼女が誰よりも優秀と認める恩師からの肯定はまるで天上の音楽のように鼓膜の内まで染み入るのだ。
「それでこの後なのですが……実験と実戦データを積み重ねるのは当然として……プロフェッサーに伺った『例のお話』もこの先に考えているのですが……」
「ふむ」
様子を伺うような紫杏のおずおずとした言葉に『教授』は短く応えた。
「約束の『援軍』が必要かな?」
「……プロフェッサーのお力を貸して頂ければ百人力です!」
大声を上げる紫杏に『教授』は小さく苦笑いをした。
「それは任せておきたまえ。しかし今は目の前の実験と更なるデータの蓄積が重要だ。先の事はまた別の機会に話すとして、可愛い教え子の手腕をもう暫くは楽しく眺めさせて貰うとしよう。期待している、六道紫杏」
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