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<アーク本部>
「酷いもんだ」
珍しくアーク司令として席につく父、貴樹に一通りの報告を終えた沙織は吐き捨てるようにそう言って、ファイリングした資料を机の上に放り投げた。
「アーク側も尽力したが、負けた所も多い。人的被害も物的被害も大変なもんだ。
ついでに言えば都市部で鬼共が暴れまくった所為で神秘の露呈が著しい。主要メディアには一応俺の方から圧力はかけといたけどね。それも何処まで効くか。ネットは手のつけようがねぇし、第一人の口に戸は立たねぇよ」
沙織はお手上げのポーズで厳しい顔をしたままの父の様子を伺った。鬼道の驀進は不安定化が進んでいた日本の状況に酷い拍車をかけた。岡山県内の各所で暴れに暴れた彼等の存在は瞬く間に噂として日本中を駆け巡った。目撃情報多数、写真は流出し、大騒ぎの有様である。尤も『人間は自分が目の当たりにしなければオカルト等信じる性質ではない』から、それら『此の世の真実』はまだ辛うじて『虚構扱い』の水域を保ってはいるのだが。
しかして、沙織の言う通り。『白昼の同時多発通り魔事件』で事にけりがつくのは不可能である。何よりの問題は復活した『温羅』と鬼達の存在と動向なのだから。
「理屈は知らないが……まさか、本当に要塞がな」
「ああ」
沙織の言葉に貴樹は苦笑いをして頷いた。生還したリベリスタの報告で告げられた『温羅』の復活。決戦の現場となった『鬼ノ城』は元の自然公園の名残を残していない。或る意味で二人にとって一番頭が痛いのはその場所の存在だった。『鬼ノ城』は主の帰還と共に蘇ったのである。威容を誇る鬼の砦は唯の一晩でその場所に現れたのであった。
各地で頻発した鬼の被害、そして鬼ノ城の復活。異常な状況がこれだけ揃えば隠蔽や緘口令等頼りになるものでもない。
「そう長い時間は、持たんぞ」
「分かってる。人間も鬼もだ。静かにしてる間に何とか、な」
念を押した貴樹に沙織は頷く。
政府に密やかに働きかけ一帯を封鎖し、状況の調査、先にある自衛隊の出動を止めたのは自身の人脈、政治力をフルに活用した貴樹である。万華鏡で観測した所、中位以上の鬼の個体には、神秘に拠らぬボトム・チャンネルの攻撃を無効化する『階位障壁』が確認されている。交戦は抜本的な解決にはならず、逆に致命的な事態を招く可能性が高いのだ。
(さて、どうするか……)
攻撃計画を練ろうにも、『温羅』は並の相手ではない。
加えて『禍鬼』の作戦で封印の崩壊が進み、鬼の戦力が増している事実も見過ごせない。更には『豪鬼』の封印こそ死守したものの、『禍鬼』に匹敵する『風鳴童子』と『鳥ヶ御前』――識別名『四天王』が復活したというのも痛い。『鬼ノ城』の復活はアークの舵取りの難しさを増している。
無言になった沙織の手元の端末が不意に電子音を響かせた。
「……ああ」
小モニターにはひらひらと手を振る『塔の魔女』アシュレイの場違いとも言える朗らかな笑顔が映っている。
『状況柄、困っているんじゃないかと思いまして!』
「当たり。褒めないぞ、言っとくけど」
『えへへ、いっぱい褒めて下さいよ!
えーとですね、『温羅』様? アレ、かなり凶悪な個体ですがどうも完全じゃないみたいですよ。今ですね、イヴ様とか智親様とかアークのフォーチュナの皆さんと協力して、ええと。スパイスも少々振り掛けまして、善後策を探していたんですけど。ご命令通り!』
「褒めるような結果が出たか?」
『ですです。あの『温羅』様に対する切り札になるかも知れない存在がですね。
一応……まだ、確実ではないのですけど!』
アシュレイの言葉は歯切れが悪いが、藁にも縋りたい現況である。
「期待はしてる。人間様の怖さ、思い知らせてやるぜ。この野郎」
沙織の言葉は色濃い疲労を含んでいたが、俄かにもたらされた足掛かりのへの言及に彼の眼光は鋭さを増していた。
※鬼道の暴挙により崩界度が53→56に変化しました!
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