「再三、申し上げてきたと思いますけど……
私とアークとは『一部』の目的を共有出来るんですよ、間違いなく。言ってしまえば私とジャック様も『一部』の目的しか共有していない。ジャック様は『穴』が開くのを望み、『伝説』と『王国』を築く事を望んでいる。
アークの皆さんは『穴の阻止』と『ジャック様の打倒』を望み――」
アシュレイはそこで言葉を切って色っぽく笑った。
「――『私は穴が開く事を望み、ジャック様が倒れる事を望んでいる』」
沙織は息を呑んだ。
理由は分からねど、「成る程」と納得した。
思えばアシュレイは常に中間に居た。
まるで毒花。ジャックとアークの目的を半分ずつ共有し、どちらに寄る事も無く――否、時にどちらにも擦り寄って。自分一人だけ『全ての目的』を達しようとしている、という事なのだ。
「ジャック様を皆さんが――少なくとも現状の皆さんが倒すにはこの機会は最良のチャンスですよ。皆さんが奮闘してくれたお陰でシンヤ様は『賢者の石』を十分に獲得する事が出来なかった。
つまり、儀式は『石だけの力では成立しない』。儀式にかかりきりになるジャック様はその間、大いに力を落とす事でしょう」
「――――」
沙織は言葉に今一度息を呑んだ。つまり、それは。
「……と、言っても。私の目的は何度もお伝えした通り『穴を開ける事』と『ジャック様が倒れる事』の両方ですから。後者は兎も角、前者についてはお互いに平行線です。ジャック様が儀式を成立させ、彼の力無くても『私の求める穴が開く』までは邪魔をさせて頂きます。必要がなくなるまではジャック様の近辺に『無限回廊』という特殊な陣地を用意させて頂く心算です。言っちゃえば空間を歪めてワープゾーン! みたいな単純なアレですが、まぁ。私がこうしてお話するのはその後、皆さんに彼との決着をつけて頂こうと考えているからでして――」
酷く虫のいい話である。
しかし、アシュレイの思惑に必ずしも乗る必要は無い。アークはあくまで穴を阻止し、ジャックを倒すのが目標。一方的に情報を押し付けてきたアシュレイとは何の約束も無いのだから。
「はいはい。勿論、皆さんが私を含めて打倒しようとするのは自由です。私が今お話している理由は『ジャック様を打倒する』という目的の方の為の理由でして、一つ目の項目を私に譲れとは申し上げません。全ては運命の為すがまま、という訳でして……」
アシュレイの気楽な調子を無視して沙織は一つ咳払いをした。
「成る程、お前は俺達を利用する、俺達はお前を利用しろ、か。
確かにフィフティだ。お互いに何を遠慮する事も無い」
「はい。そう受け取って頂ければ!」
「一つだけ聞くぜ」
「はい」
「現場は、何処だ――」
やがて来る死線を思い浮かべ、沙織は重く聞いた。
アシュレイは少しだけ逡巡するような間の後――
「『穴が開く』か『儀式が失敗する』までは敵ですよ?
いいえ、もう少し正しく申し上げれば――私が言う必要は無いんですよ」
それは悪戯っぽい声だった。
「何日かすれば、真白室長が『万華鏡』を強化します。
『賢者の石』を使った、その神の目で。
私がここで言わなくても、きっと皆さんは現場に急行する……」
――それは、『分かって』いるんです――
悪戯っぽい、声だった。
→アシュレイへの対応討議
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