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<研究開発室>
「シンヤの手下がこそこそしてた理由がハッキリしたな」
「ああ」
言葉と共に大きく息を吐き出した智親に沙織は短く応えて頷いた。
アークの叡智の結集とも言うべき研究開発室は今、リベリスタ達によって新しくもたらされた情報の解析に追われていた。
「成る程、『賢者の石』か。これだけの実物を見たのは初めてだが……」
智親は増殖性革醒現象をほぼ抑制する特製のケースに収められた赤い魔石の様子をモニター越しに眺めて呆れたように呟いた。
「何か分かったのか?」
「到底、俺達に理解の及ぶ代物じゃないって事が分かったよ。
そりゃあ一流の魔術師が追い求めるだけはある。『何かを理解出来なくても、山のように力を引き出すのは簡単』なんだからな」
自嘲めいた智親の言葉に沙織は小さく肩を竦めた。
「連中の狙いはこれ、なんだろうな」
「断言は出来ねぇけどな」
「……この所、世界の安定具合が悪いって話だったが」
「関係があるかどうかは俺にも分からん。だが、こんなでかい『賢者の石』がポン、と出てくる位なんだ。まともじゃねぇんだろうな」
智親は苦笑い交じりに言葉を続ける。
「『賢者の石』はアザーバイドでアーティファクトだ。それ自体は周囲の物質や減少に増殖性革醒現象をもたらすが、本体そのものは直接的な崩界要因には成り得ない。その辺りの理屈は俺にも良く分からんがね、例外的な存在だから――通常の調整で万華鏡の察知にかけるのは中々難しい、と言える」
「これで、終わるのか?」
「知らん」
智親はにべもない。
「仮に終わらないとして、こりゃ大変なもんなんだろ。
大規模儀式で穴を開けるとか……そんな連中に渡す訳にはいかないよな」
「当然だ」
「どうも魔女は『賢者の石』の波動を捕まえてるみたいだが……」
「まぁ、焦るな。こっちにしたって『通常の状態』なら難しいってだけの話だよ」
幾らか急いた沙織にホームの強みを存分に発揮した智親は余裕を漂わせて答えた。
「幸いにもうちの連中が『賢者の石』を持ち帰ってくれたからな。
このまま解析を進めて、反応や波長、データを万華鏡にフィードすれば……最悪、探知位は効くだろう。連中のこれからの狙いが『賢者の石』なのかは分からないがね」
「ああ。後宮派の動きに対して注視も要るな」
マイペースを取り戻した沙織は小さく頷いた。エージェント千堂との調整は順調に進んでいた。彼は自身の所属する『恐山』に加え新たに『逆凪』、『剣林』、『三尋木』の三派に話を通したのである。尤もその話に自身が『恐山』との協定時に提案した戦力拠出についての協定と、利益配分の協定は含まれてはいないのが彼らしいと言える所ではあったが。どうあれ重要なのはアークの情報収集力が飛躍的に向上しているという点である。
「……ま、なるようにしかならないのは分かるけどよ」
沙織は鈍く赤光を撒き散らす魔性そのものを茫と眺めて呟いた。
「どうなってんだか、この世界は」
※日本エリアの崩界度が21から23に上昇しました。
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