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<蝮原 咬兵>
携帯の電源を切る。
労いの言葉と言う名の要らないプレッシャーからようやく解放された男――蝮原 咬兵は小さく溜息を吐いた。
緩い動作でポケットから煙草を取り出し、紫煙をくゆらせる。最近は特に肩身が狭くなった動作だったが、咬兵はコレが好きだった。
堂々と溜息を吐かせてくれる小道具はどうしたって嫌いになれない。
「お疲れですね」
「……ああ……」
部下の言葉に咬兵は頷いた。普段、弱みを見せないタイプだからこそ部下は苦笑する。
「こりゃ、本格的だ。首尾はどうだったんで?」
「アークを見てきた。他の連中も、同じだろ」
「それで何勝何敗で?」
「ほぼ全敗だな。まぁ、元々勝つ必要は無かったんだ。やる気の問題が大きいんだろうがな」
「それはそれは」
部下は目を丸くした。知り得る限り件の『アーク』に参加しているリベリスタ達はほぼ新兵ばかりの筈である。それがこの結果とは予想以上も予想以上。まるで何かの冗談である。
「ま、でも流石に咬兵さんは蹴散らしたんでしょ?」
「……自慢にもならねェよ」
咬兵はさして面白くもなさそうにそう言った。
「それにしても……『カレイド・システム』か」
「そいつがアークの切り札ですかい? 正体は掴めたんで?」
「見当はついてるよ。幾つかの局面で情報が来たからな。しかし、厄介な事になりそうだ」
咬兵は又、紫煙を燻らせた。
面倒は少ないほうが良い。何せ、自分は――
「ああ、そうだ。咬兵さん」
「……ん?」
「お嬢が今夜はハンバーグを作ったそうで。
絶対に連れて帰って来い、って厳命されてるんでさ」
「……ああ……」
堅い蝮原の表情が僅かに緩んだ。
それは苦笑と安堵が入り混じったような複雑な表情で、彼が今回の仕事を『取り敢えず』終わらせた事を意味していた。
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