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しとしとと雨の降る暗い路地を行く人影がある。
男である。些か季節のそぐわない黒いコートを身にまとう、一目で尋常ではない『特有の空気』を持つ男である。
男の口元には苦笑いに似た形を作っていた。
しがらみを形にしたものが世の中で、だから世の中というモノはままならぬ何かで出来ている。理解はしていたが、せめてこれ位は許してほしいというものだ。
男は深い溜息を吐き出した。
もたらされた新たな『運命』は彼にとって余り歓迎出来るものではなかった。いや、今更『仕事』を躊躇っている訳では無い。もっと単純に彼は自身の勘――なんともこの天気のように優れぬその気分に信を置いているだけだ。
(まったく、嫌な予感しかしないがな……)
今は凪。
男は帽子を目深に被りなおし夜の闇の中に歩み出す。都会の雑踏は程無く彼の痕跡を消し去ってしまうだろう。
誰も知らない。この夜を厭う『相模の蝮』がこれから何をしようとしていても――
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